・・・「さすがは、大名道具だて。」「同じ道具でも、ああ云う物は、つぶしが利きやす。」「質に置いたら、何両貸す事かの。」「貴公じゃあるまいし、誰が質になんぞ、置くものか。」 ざっと、こんな調子である。 するとある日、彼等の五・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・背の高い骨格の逞ましい老人は凝然と眺めて、折り折り眼をしばだたいていたが、何時しか先きの気勢にも似ずさも力なさそうに細川繁を振向いて「オイ貴公この道具を宅まで運こんでおくれ、乃公は帰るから」 言い捨てて去って了った。校長の細川は取残・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ と無慾の人だから少しも構いませんで、番町の石川という御旗下の邸へ往くと、お客来で、七兵衞は常々御贔屓だから、殿「直にこれへ……金田氏貴公も予て此の七兵衞は御存じだろう、不断はまるで馬鹿だね、始終心の中で何か考えて居って、何を問い掛・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・「――勿論、貴公らがだナ、ボルだのアナだのと、理想をいうのはけっこうですよ。しかし、しかし――まぁ、わしのいうことをきくがええ、しかしだナ、熊本あたりの労働者というもんは、そんな七むずかしいことはわからんたい。ああ、普選運動がやっと……・・・ 徳永直 「白い道」
・・・数百千の男女はエジプトの野を覆うという蝗の群れのように動いている。貴公は何ゆえに歩いてるかと問うと用事があるからだと言う、何ゆえに用事があるかと問うと、おれは商売をしている、遊んでるのじゃないと答える。商売は金のためで金は欲のためである。生・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫