・・・キリスト教の精神が死んでいなかったならば、彼等は賃金制度によって人間が奴隷化され、自由競争によって不平等不公平を来たしたこの階級を、むしろ当然のことのように見なし、他を虐げて怪しまない今日の社会制度に対して黙っていられるわけがない。彼等の称・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・ 主人は、杜氏が去ったあとで、毎月労働者の賃銀の中から、総額の五分ずつ貯金をさして、自分が預っている金が与助の分も四十円近くたまっていることに思い及んでいた。 杜氏は、醸造場へ来ると事務所へ与助を呼んで、障子を閉め切って、外へ話・・・ 黒島伝治 「砂糖泥棒」
・・・ だが、樽屋になると、又賃銀が安い。古樽の吹き直しはいやだ、材料が悪い。など、常にブツ/\云うことだろう。 黒島伝治 「自画像」
・・・そうかといって、醤油屋の労働者になっても、仕事がえらくて、賃銀は少なかった。が今更、百姓をやめて商売人に早変りをすることも出来なければ、醤油屋の番頭になる訳にも行かない。しかし息子を、自分がたどって来たような不利な立場に陥入れるのは、彼れに・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・彼は、「お主の賃銀もその話が片づいてから渡すものは渡すそうじゃ、まあ、それまでざいへ去んで休んどって貰えやえゝ。」と云った。「そいつは併し困るんだがなあ。賃銀だけは貰って行かなくちゃ!」 既に月の二十五日だった。暮れの節季には金・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・工場や、農村に残っている同志や親爺には、工場主の賃銀の値下げがある。馘首がある。地主の小作料の引上げや、立入禁止、又も差押えがある。労働者は、働いても食うことが出来ない。働くにも働く仕事を奪われる。小作人は、折角、耕して作った稲を差押えられ・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 三 帝国主義××は、何等進歩的意義を持っているものではなく、却って、世界の多数の民族を抑圧すると共に、その自国内に於けるプロレタリアをも抑圧して、賃銀労働の制度を確保し拡大せんがために行われるものである。けれども・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・「俺等だって、賃銀を上げろ、上げなきゃ、畜生! 熔鉱炉を冷やしてかち/\にしてやるなんざ、なんでもねえこったからな。」「うむ、/\。」「いくら、鉱石が地の底で呻っとったってさ、俺達が掘り出さなきゃ、一文にもなりゃすめえ。」 ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・数週前から慣れた労働もせず、随って賃銀も貰わないのである。そういう男等が偶然この土地へ来たり、また知り人を尋ねて来たのである。それがみんな清い空気と河の広い見晴しとに、不思議に引寄せられているのである。文明の結果で飾られていても、積み上げた・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
おけさ丸。総噸数、四百八十八噸。旅客定員、一等、二十名。二等、七十七名。三等、三百二名。賃銀、一等、三円五十銭。二等、二円五十銭。三等、一円五十銭。粁程、六十三粁。新潟出帆、午後二時。佐渡夷着、午後四時四十五分の予定。速力・・・ 太宰治 「佐渡」
出典:青空文庫