・・・なぜと云うに、宿料、朝食代、給仕の賃銀なんぞの外に、いろいろな筆数が附いている。町の掃除人の妻にやった心附け、潜水夫にやった酒手、私立探偵事務所の費用なんぞである。 引き越したホテルはベルリン市のまるであべこべの方角にある。宿帳へは偽名・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ たとえば私は自分で芝を刈る事によって、植木屋の賃銀を奪っているのではないかという問題に出会った。そしていろいろもて扱っているうちに、これがもうかなりに古いありふれた問題である事に気がついた。それかと言ってこれに対する明快な解決はやはり・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ 入ってゆくと廊下で、左側には「賃銀支払金庫」「保険貯金」などと札の下った窓口が並んでいる。右側に戸がなるほど二つある。奥の方には「工場委員会」「コムソモール・ヤチェイカ」と札が出ている。みなさんも知っているとおり、ソヴェト同盟では工場・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・日本の労働組合は一生懸命に同じ労働に対する男女の同じ賃金を求めて闘かっているけれども、実際に婦人のとる給料はまだ男よりも少ない。しかし女の子の方が身なり一つにも金がかかる。絹の靴下は一足が八百円もして、それは二ヵ月しかもたないのだから。気儘・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・婦人労働者が平等の賃銀と母性保護を求め、女子学生が文部省のひどい月謝値上げに反対していて、男子学生とともに、働きながら学べる大学を求めていることは、この新帰朝者に知られていません。日本のわたしたちは、憲法の抽象的な人権擁護の文句を、実質のあ・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・そして、巣鴨の学校から志村のその工場へ通うバス代と別に「相当した賃銀」を出していると語っている。 十文字女史によって子供たちといわれている娘も、女学校の四五年とあれば、もう女工としては十分に一人前である。毎日の二時間で、若い娘たちはどの・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・「住宅問題の解決や賃金問題の解決はぬきにして」きたるべき選挙に今日の政府は勝算をもっているかもしれない、それだから組閣のはじめに用心深くさまざまの疑獄事件にひっかかりそうな閣僚をさけました。社会党のくされぐあいがあんまりひどかったおかげで吉・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・三十年間にうけた抑圧との闘いによってプロレタリアとして目覚めた一移民労働者が、今や彼の賃金を百ドルから七十ドルに切り下げる恐慌に対して、利害の衝突する二つの資本主義国家間の泥仕合的排外主義に対し、ピオニイルの養成にも熱誠を示すというようなの・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 男女が平等ということは、同じ労働に対し同じ賃金ということを当然約束しているけれども、これまでの日本の実状では、同じ職場で同じ部門に働いている男女が必ずしも同じ程度の腕をもっているとは云えない。女は、これまでじきやめてしまうもの、やすい・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
・・・マルクスが、経済学の本に、特に、賃銀とはどういうものかということを研究した本のなかで、世界の勤労者に、君たちの時間は、どう使われているか、ということについて注意をよびおこしたのは、実に意味ふかいことであった。君たちの時間はどう使われているか・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
出典:青空文庫