・・・紡績業は明治の初め日本の資本主義発展の基礎になって、少女の安い労働でもって作った紡績生産量を、世界市場へ最も安く売り出し、イギリスのように紡績業が発達していると同時に一般の社会生活が進んでいて労働賃金の高いところの生産品と競争した。近代日本・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・一、仕事の割当によって賃銀を払われる。収穫物の取引は集団農場と国営の生産組合とが直接やるのであるから、だまされる心配をする必要がない。 その他に便利は沢山ある。 集団農場には托児所、共同食堂、クラブなどはつきものとなっている。・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・工場によっては苦しまぎれに、賃銀をよくして労働者を集めようとする。そこで、一九三〇年の冬に大清算された「飛びや」が現れた。つまり、五十哥でも多い方へ多い方へと、工場から工場へと飛びうつってゆく飛びや労働者だ。 短篇小説は、職場の意識の低・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・家族手当をやめよ、賃銀を労働者一人の能率払いにせよ、と書いている。『中央公論』は、仄聞するところによると十万の出版部数をもっているそうだ。『中央公論』をよむ人はまたリーダーズ・ダイジェストもよんでいる。そして行政整理に生活不安を感じる人・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・勿論女も男と同じ労働に対しては同一の賃銀で、産前産後四ヵ月の有給休暇を貰う。無料の産院がある。そして、昔はブルジョアや貴族がもっていた別荘を、今は労働組合の「休養の家」として、そこへ休暇にゆく。「では、何故ソヴェト同盟において、労働者はかく・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・そして賃銀でやとわれて働く境遇にかわって行っている。 あらゆる面で統制化されてゆくこの頃の事情は、それらの根本的な問題にどんな光明を投げるだろうか。漁村の婦人の生活の向上ということも、それだけを切りはなして語ることは出来ないのだと思う。・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・ 会社のやりくりがうまくゆかないときには組が賃銀を立てかえる。急な設備がいるとなると、これまた組がやることになる。重り重った借金を会社は株で払うしか方法がなかったので、昨今の景気は或る組を相当な株主にしてしまった。仕事があっても、これで・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 更に、この条項を眺めていると、私たちの心には、まざまざと先頃厚生大臣から発表された最低賃銀の規定が浮んで来る。男子三〇歳―五〇歳、四百五十円。女子一五〇円と。「人」といううちに、女子を含まないはずはない。人というなかに、三〇歳未満の青・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
東京化学製造所は盛に新聞で攻撃せられながら、兎に角一廉の大工場になった。 攻撃は職工の賃銀問題である。賃銀は上げて遣れば好い。しかしどこまでも上げて遣るというわけには行かない。そんならその度合はどうして極まるか。職工の・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・不足な賃銀を握った馬丁のように荒々しく安次を曳いて、「勘次、勘次。」と呼びながら這入って来た。勘次は黙って出迎えた。「これ勘公、逃げさらすなよ。」「遠いところを済まんのう、何んべんも。」 秋三は急に静な微笑を浮べた勘次のその・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫