・・・彼は資本主義の魔王であって、此れは共産主義の夜叉である。僕は図らずもこの両者に接して、現代の邦家を危くする二つの悪例を目撃し、転時難を憂るの念に堪えざる如き思があった。ここに此の贅言を綴った所以である。トデモ言うより外に仕様がない。年の暮も・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・なぜ無理だと言いますと、資本家とかあるいは政府とか、あるいは教育者とか云うものが、総て多数の人間を相手にしてそうして、何か事を手早く運び、手際よく片づけようと云うためには、どうしたって統一と云う事と、組織と云う事と、秩序と云う事を真向に振翳・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・「たとえ、お前が裁判所に持ち出したって、こっちは一億円の資本を擁する大会社だ。それに、裁判はこちらの都合で、五年でも十年でも引っ張れる。その間、お前はどうして食う。裁判費用をどこから出す。ヘッヘッヘッ」と、吉武有と云う、鋳込まれたキャプスタ・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・たとえば、各地方に令して就学適齢の人員を調査し、就学者の多寡をかぞえ、人口と就学者との割合を比例し、または諸学校の地位・履歴、その資本の出処・保存の方法を具申せしめ、時としては吏人を地方に派出して諸件を監督せしむる等、すべて学校の管理に関す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・万一形が崩れぬとした所で、浅草へ見世物に出されてお賽銭を貪る資本とせられては誠に情け無い次第である。 死後の自己に於ける客観的の観察はそれからそれといろいろ考えて見ても、どうもこれなら具合のいいという死にようもないので、なろう事なら星に・・・ 正岡子規 「死後」
・・・「ええ、まあ別に新らしい資本がかかるわけでもなし、革をなめしたりハムを拵えたり、栗を蒸して乾かしたり、そんなことをいろいろやろうというんです。」「さあもう行こう。」ファゼーロがわたくしをつっつきました。「それじゃまた。」「お・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・アメリカ、イギリスのように資本主義の下での民主主義を完成して更により発展した民主主義社会への見とおしにおかれている国。ソヴェト同盟のように、社会主義的民主社会に歩み入っている国。 その国々で、婦人たちの社会生活条件は其々に違っている。未・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ Saint-Simon のような人の書いた物を耽読しているとか、Marx の資本論を訳したとかいうので社会主義者にせられたり、Bakunin, Kropotkin を紹介したというので、無政府主義者にせられたとしても、読むもの訳するも・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ ――いかなるものと雖も、わが国の現実は、資本主義であると云う事実を認めねばならぬ。と。 此の一大事実を認めた以上は、われわれはいかに優れたコンミニストと雖も、資本主義と云う社会を、敵にこそすれ、敵としたるがごとくしかく有力な社・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・階級争闘が必然であるように見えるのは不忠な政治家や不忠な資本家などがいるからであって、すべての人が万民志を遂ぐることを理想とする忠良な臣民になりさえすれば、階級争闘などの必要はない。過激運動なども起こらなくなる。従って真に皇室を護衛すること・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫