・・・ 忠左衛門は、眉をあげて、賛同を求めるように、堀部弥兵衛を見た。慷慨家の弥兵衛は、もとより黙っていない。「引き上げの朝、彼奴に遇った時には、唾を吐きかけても飽き足らぬと思いました。何しろのめのめと我々の前へ面をさらした上に、御本望を・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・先日おいでの折、男子の面目は在武術と説き、諸卿の素直なる御賛同を得たるも、教訓する者みずから率先して実行せざれば、あたら卓説も瓦礫に等しく意味無きものと相成るべく、老生もとより愚昧と雖も教えて責を負わざる無反省の教師にては無之、昨夕、老骨奮・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・のみならずもう候補者まで見つけて来て私に賛同を求めるのであった。 しかし牛乳屋が正直にもとの家へ返したところで、まただれか新しい飼い主の手に渡るにしても結局はのら猫になるよりほかの運命は考えられないようなこの猫をみすみす出してしまうのも・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ 世界思想史について些の常識を有する者には小林氏の以上のようなロシア文学史についての見解はそれなり賛同しかねるであろうし、特に明治社会と文化との生成の間、全く未開のまま通過され異質のものに覆われてしまった中江兆民の時代の思想の意義を、抹・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・さえも、当時のまだ方向が決定しなかったドイツの運動の段階においてはさけがたいものであったろう或る種の制約をうけていたことを、手紙の多くの箇所に、特に彼女がゲーテの自然科学を研究した観念論者らしい態度に賛同し、自分も環境を無視して今地質の本を・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・と直覚した久内に、全く賛同しているのである。 ビヤホールで、賢くも確りもしていない善作に向い久内である作者が説明した自由の「自分の感情と思想とを独立させて冷然と眺めることのできる闊達自在な精神」なるものは、そうして見ると、動的なものでは・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・日本的なものということが、それだけ抽象化され、今日の大衆生活の現実との関係では、現実のありようから着実な観察の眼を引離す方向でいわれはじめた場合に、無条件でそれに賛同するプロレタリア作家もなかろうではないか。プロレタリア文学が置かれている今・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・この傾向は、特に、日本の文化が置かれている今日の事情に照らして、軽々に賛同出来がたいものをもっているのである。 人間的なものの美と価値とを、異常な場合の中に発見しようとして来た過去の文学に対して、人間的なものを、一般平凡、普遍なものの中・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫