・・・蛾をはたき落とす猫をうらやみ賛嘆する心がベースボールのホームランヒットに喝采を送る。一片の麩を争う池の鯉の跳躍への憧憬がラグビー戦の観客を吸い寄せる原動力となるであろう。オリンピック競技では馬やかもしかや魚の妙技に肉薄しようという世界じゅう・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ところが何日か経って、天井の低い茶室まがいの部屋へそのピアノが入って来たとき、私のおどろきと讚歎はどうだったろう。こんなに綺麗で、こんなに立派だったとは思いもかけず、左右についている銀色の燭台に蝋燭の灯をきらめかせて、何時間も何時間も、夜な・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
・・・に高揚された姿であるのも若い女のひとのこころを直接にうたない場合が多い。このことは逆な作用ともなって、たとえばパストゥールを主人公とした「科学者の道」の映画や「キュリー夫人伝」に讚歎するとき若い婦人たちはそれぞれの主人公たちの伝奇的な面へロ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・人間ぬきの自然美を讚歎して描く。「農村にだけほんとのロシアがのこっている」という考えかたは、農民作家共通のものと云えた。 一九三〇年の或る秋の日のことである。わたしは、ソヴェトのいろんな作家団、劇作家団が事務所をもっている「ゲルツェンの・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・までつよく生きさせる可能を与えている一方に、なおこのような小説をパール・バックにさえかかせるような女としての苦悩の要因をふくんだ習俗におさえられている社会であること、女に生れたことをくやむ言葉が女への讚歎として男の唇から洩されるようなおくれ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・ソヴェトの偉業にたいする讚歎の情があればこそ、ソヴェトが彼に希望することを許したものがあればこそ強まる彼の批評精神によって「ソヴェトによって実現された事業は十中の八九まで実に称讚に価する」のであるが、のこる十分の一に示されていると彼が感じた・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・だが、キュリー夫人へのその讚歎をそれなりすらりと日本の現状にふりむけてみて、そこにある日本の婦人科学者の成長の可能条件の可否に即して真面目に考えた人たちは果して何人在っただろう。フランスであったからこそ、キュリー夫人が女で科学者であるという・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・を読んだ人は覚えているであろう。若き日の露伴が、小石川の小さい池のある一葉の住居を訪ねて行ったことがあったのを。「露団々」の作者として当時既に名の高かったこの青年作家は鴎外とともに「たけくらべ」を讚歎して、小説の上手くなるまじないに、「たけ・・・ 宮本百合子 「人生の風情」
・・・翌々年に膵臓膿腫を患い、九死に一生を得たときも、母が讚歎したのはやはりその力であった。母は、彼女を生かし、楽しますために周囲の人々が日夜つくしている心づかいや努力を、そのものとして感じとり評価する能力は失ってしまっていた。母が家庭の中で自分・・・ 宮本百合子 「母」
・・・芸術を愛する程の者ならば、村山氏に、芸術以前の形で分裂のままあらわれているこの矛盾をこそ、人間的なものとして讚歎しなければならない義務を負うているのであろうか。 小説というものには、小説としての美が要求される。これは明らかなことである。・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫