・・・しかし前の解説を書いた美術批評家は上のような賛辞を呈している。この批評家のいっている事はずいぶんいいかげんのようにも思われるが、また考え直してみるとほんとうのようにも思われた。 看護婦は毎朝これらの花鉢を室外へ持ち出して水をやってくれた・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・少くとも発明という賛辞に価するだけに発明者の苦心と創造力とが現われている。即ち国民性を通過して然る後に現れ出たものである。 こういう点から見て、自分は維新前後における西洋文明の輸入には、甚だ敬服すべきものが多いように思っている。徳川幕府・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・もしこれを思出されたなら、わたくしの雑著についての賛辞は過半取消されるにちがいない。 明治四十一年の秋西洋から帰って後、わたくしは間もなく『すみだ川』の如き小説をつくった。しかし執筆の当時には特に江戸趣味を鼓吹する心はなかった。洋行中仏・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ことにただいま牧君の紹介で漱石君の演説は迂余曲折の妙があるとか何とかいう広告めいた賛辞をちょうだいした後に出て同君の吹聴通りをやろうとするとあたかも迂余曲折の妙を極めるための芸当を御覧に入れるために登壇したようなもので、いやしくもその妙を極・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ここに余のいわゆるある意味を説明する事のできないのは遺憾であるが、作物の批評を重そこで、手紙を認めて、いささかながら早稲田から西片町へ向けて賛辞を郵送した。実は脳病が気の毒でならなかったから、こんな余計な事をしたのである。その当時君は文学者・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ 一葉女史にしても、そのまれに見る才筆にはいかなる賛辞も惜しまないのである。 けれ共、今云った様な事を感じたのは、かくす事は出来ない、――又、かくしたいとも思わない事実である。 この両作家の居られた時代を考えれば、それが必して智・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・スタインベックは、「これらはすべて極めてとるに足らない事を祝う時に使われる馬鹿馬鹿しい讚辞である」と云っている。「スターリングラードが六台の土鋤機を欲しているときに、世界は一個のごまかしの賞牌をその胸に飾ったのである」と。 だけれども、・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・によって提出されたのである。青野季吉氏は「紋章」にすっかり「圧迫され」横光氏の「自由の精華」に讚辞を惜しまれなかったのであるが、横光氏のこの「高邁」の発明も、その傍観性、非動性、負かされづめで結局勝ったのだという主観的な独善性等に引き下げら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 科学と文学の交流 よく科学者に珍らしい詩人的要素とか審美的な感覚とかいう表現が、一つの讚辞として流用されている。故寺田寅彦博士の存在は、文化の綜合的な享楽者または与え手という意味で、多数の人々の敬愛をあつめて・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・如何程美くしいものでも、其が彼女にとって、何等かの実際的効用を与えなければ、其は只彼女等特有の、形容詞たっぷりの讚辞を呈された許りで通り過ぎられてしまいますでしょう。 だから、買物を仕ようとしても、決して只珍らしいとか美くしいとか云う丈・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫