・・・ 我ら会員は相次いでナポレオン、孔子、ドストエフスキイ、ダアウィン、クレオパトラ、釈迦、デモステネス、ダンテ、千の利休等の心霊の消息を質問したり。しかれどもトック君は不幸にも詳細に答うることをなさず、かえってトック君自身に関する種々のゴ・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・が、保吉の来たのを見ると、教科書の質問とでも思ったのか、探偵小説をとざした後、静かに彼の顔へ目を擡げた。「粟野さん。さっきのお金を拝借させて下さい。どうもいろいろ考えて見ると、拝借した方が好いようですから。」 保吉は一息にこう言った・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・監督に対してあらゆる質問を発しながら、帳簿の不備を詰って、自分で紙を取りあげて計算しなおしたりした。監督が算盤を取りあげて計算をしようと申し出ても、かまいつけずに自分で大きな数を幾度も計算しなおした。父の癖として、このように一心不乱になると・・・ 有島武郎 「親子」
・・・――少い経験にしろ、数の場合にしろ、旅籠でも料理屋でも、給仕についたものから、こんな素朴な、実直な、しかも要するに猪突な質問を受けた事はかつてない。 ところで決して不味くはないから、「ああ、おいしいよ。」 と言ってまた箸を付けた・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・中には又突拍子もない質問を提出したものもあった。曰く、『焼けた本の目録はありますか?』 丸善は如何に機敏でも常から焼けるのを待構えて、焼けるべく予想する本の目録を作って置かない。又焼けてから半日経たぬ間に焼けた本の目録を作るは丸善のよう・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・とは何の事だと質問した時は、有繋の緑雨も閉口して兜を抜いで降参した。その頃の若い学士たちの馬鹿々々しい質問や楽屋落や内緒咄の剔抉きが後の『おぼえ帳』や『控え帳』の材料となったのだ。 何でもその時分だった。『帝国文学』を課題とした川柳をイ・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・救わるる者は少なき乎との質問に答えて。同十三章二十二節より三十節まで。天国への招待。十四章十五節―二十四節。天国実現の状況。十七章二十節―三十七節。財貨委託の比喩。十九章十一節―二十七節。復活者の状態。二十章三十四節―三・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・の生活についてファーブルに比すべき研究のあったこの人に、かくのごとき質問をするのは、間違っていたと、私はすぐに気付いたのでした。 その後でした。私は撒布液のはいった、器械を手に握って、木の下に立っていると、うしろから、「お父さん、い・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・恐らく講師の私を大いに学のある男だと思ったらしかったが、しかし、私は講演しながら、アラビヤに沙漠があったかどうか、あるいはまた、アラビヤに猿が棲んでいたかどうかという点については、甚だ曖昧で、質問という声が出ないかと戦々兢々としていたのであ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・彼等は教師の洒落や冗談までノートに取り、しかもその洒落や冗談を記憶して置く必要があるかどうか、即ちそれが試験に出るかどうかと質問したりした。彼等の関心は試験に良い点を取ることであり、東京帝国大学の法科を良い成績で出ることであり、昭和何年組の・・・ 織田作之助 「髪」
出典:青空文庫