・・・ 瓜畑を見透しの縁――そこが座敷――に足を投出して、腹這いになった男が一人、黄色な団扇で、耳も頭もかくしながら、土地の赤新聞というのを、鼻の下に敷いていたのが、と見る間に、二ツ三ツ団扇ばかり動いたと思えば、くるりと仰向けになった胸が、臍・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・……も、――も、丶も、邪魔なようで焦ったい。が、しかしその一つ一つが、峨々たる巌、森とした樹立に見えた。丶さえ深く刻んだ谷に見えた。……赤新聞と言うのは唯今でもどこかにある……土地の、その新聞は紙が青かった。それが澄渡った秋深き空のようで、・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・ ところが、去年の秋、俗に赤新聞とよばれている大阪日日新聞の音楽コンクールで、彼の三人の弟子たちが三人とも殆ど最高点に近い成績を取った。「それ見ろ」 と庄之助は呟いた。「――世間の教師らはヴァイオリンの教授を坊ちゃん嬢ちゃん・・・ 織田作之助 「道なき道」
出典:青空文庫