・・・それでも合戦と云う日には、南無阿弥陀仏と大文字に書いた紙の羽織を素肌に纏い、枝つきの竹を差し物に代え、右手に三尺五寸の太刀を抜き、左手に赤紙の扇を開き、『人の若衆を盗むよりしては首を取らりょと覚悟した』と、大声に歌をうたいながら、織田殿の身・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・働き盛りの男子が、赤紙一枚で数百万人も殺されたということは、じかに婦人と青年たちの生活の負担となって来ている。平和を確保し、人民社会を建設し、「人」として最も大きい飛躍をとげる原動力は、青年たちと婦人たちでなければならない。 学生の政治・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ 戦争へ召集する一枚の赤紙はその絶対命令によって、日本のあらゆる家庭から良人と父親、愛人、兄弟たちを奪い取りました。一枚の赤紙は、幾千万の日本の家庭を片はじから破壊しました。婦人が男にかわって今日までつくしてきた生活上の努力は言葉には云・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・にしたら、もう官僚機構の腐敗のままに薄情きわまる扱いをして恥も知らないやりかたは、何と「赤紙一枚」を思わせるだろう。きょうの辛さに喘いでいる数十万の未亡人、孤児、戦傷者たちは、かつてはすべて護国の宝であったのだ。法隆寺の例にむきだされた行政・・・ 宮本百合子 「国宝」
・・・日本から赤紙一枚で前線に送られた兵士たちは、平和な日常生活の習慣から切りはなされ、国家の権力で殺すことを命じられ、その方法を教えられ、人を殺すことについて人間の当然感じる恐怖心を麻痺させる訓練を日夜つまされた。東京裁判の記事を見ても、信じら・・・ 宮本百合子 「戦争でこわされた人間性」
・・・日本中の婦人は赤紙一枚で自分たちの平和をうちこわし運命をかえてしまったものが、そういう性質の戦争を強引に行った権力であったことを知りました。今日すべての婦人が求めているのは平和と生活の安定だと思います。あの戦争の間、戦争後の今日いわれている・・・ 宮本百合子 「本当の愛嬌ということ」
出典:青空文庫