・・・その聖徒は聖徒自身の造った超人に救いを求めました。が、やはり救われずに気違いになってしまったのです。もし気違いにならなかったとすれば、あるいは聖徒の数へはいることもできなかったかもしれません。……」 長老はちょっと黙った後、第三の龕の前・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・――ショウは「人と超人と」の中にこの事実を戯曲化した。しかしこれを戯曲化したものは必しもショウにはじまるのではない。わたくしは梅蘭芳の「虹霓関」を見、支那にも既にこの事実に注目した戯曲家のあるのを知った。のみならず「戯考」は「虹霓関」の外に・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 巨匠にして、超人と称えらるる、ある洋画家が、わが、名によって、お誓をひき寄せ、銑吉を傍にして、「お誓さんに是非というのだ、この人に酌をしておあげなさい。」「はい。」 が、また娘分に仕立てられても、奉公人の謙譲があって、出過・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・熱烈と孤高と純直と、そして大衆への哭くが如きの愛とを持った、日本におけるまれに見る超人的性格者であった。 五 立正安国論 日蓮は鎌倉に登ると、松葉ヶ谷に草庵を結んで、ここを根本道場として法幡をひるがえし、彼の法戦を始・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・コレ、神ノ子ノ言。超人説ケル小心、恐々ノ人ノ子、笑イナガラ厳粛ノコトヲ語レ、ト秀抜真珠ノ哲人、叫ンデ自責、狂死シタ。自省直ケレバ千万人ト言エドモ、――イヤ、握手ハマダマダ、ソノ楯ノウラノ言葉ヲコソ、「自省直カラザレバ、乞食ト会ッテモ、赤面狼・・・ 太宰治 「創生記」
・・・それで、今もしここに一人のすぐれた超人間があって、それらの方程式の全体を把握し、そうしていろいろな可能な境界条件、当初条件等を插入して、その解を求めることができたとする。そうしてその問題と解決と結論とを、われわれにわかる言葉で記述してわれわ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それはとてもできそうもないし、かりにそれができたとした時に私はおそらく超人の孤独と悲哀を感じなければなるまい。凡人の私はやはり子猫でもかわいがって、そして人間は人間として尊敬し親しみ恐れはばかりあるいは憎むよりほかはないかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・しかもただ一歩で、すぐ捉へることができるやうに、虚偽の影法師で欺きながら、結局あの恐ろしい狂気が棲む超人の森の中へ、読者を魔術しながら導いて行く。 ニイチェを理解することは、何よりも先づ、彼の文学を「感情する」ことである。すべての詩の理・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・、冰心女士「超人」「うつしえ」、葉紹鈞「稲草人」「古代英雄の石像」、郭沫若「黒猫」「自叙伝」等である。 これら七篇の作品を読み、一貫してつよく心を打たれたのは、これらの中国の作家たちはおそらく小説で飯をたべてはいまい、というリアリスティ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・一九〇三年にバーナード・ショウの書いた「人と超人」はそういう思想に立っている。日本でも初期の田山花袋や徳田秋声のような自然主義作家は、両性の複雑な交渉の底に赤裸々な生物的本能だけを発見している。 資本主義社会の現実が、両性関係に齎してい・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫