・・・一つ欠席日数超過、二つ教師の反感を買っていること、三つ心身共に堕落していること、例えば髪の毛が長すぎる云々。 私は希望通り現級に止まったが、私より一足さきに卒業した友人がノートを残して行ってくれたので、私は毎年同じ講義のノートをもう一つ・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ このほかにもまだいろいろあるであろうがあまりに予定の紙数を超過するからまずこのへんで筆をおく事とする。このはなはだ杜撰な空想的色彩の濃厚な漫筆が読者の中の元気で自由で有為な若い自然研究者になんらかの新題目を示唆することができれば大幸で・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ わが国で年々火災のために灰と煙になってしまう動産不動産の価格は実に二億円を超過している。年々火災のために生ずる死者の数は約二千人と見積もられている。十年たてば二十億円の金と二万人の命の損失である。関東震災の損害がいかに大きくてもそれは・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・これをかなの数にして合計すると百十字で、全体三百十字の三分の一を超過している。それでこの十首より成る一群の内容は「松の葉に雨の露が玉のごとくにおいて、それがこぼれ落ちる」というだけのことを繰り返し繰り返し諷詠したものであって、連作としてはお・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 本屋は早速見つくろって幾通りかの本をその書架につめたら、金額は四十円を超過して二百円ばかりかかった。しかし、その新邸の主人は、これで大層立派になったと云ってよろこんだそうだ。 本がよく売れるという昨今の文化のありようには、こんな見・・・ 宮本百合子 「見つくろい」
・・・陸軍で極めている一人一日精米六合というのを迥に超過している。石田は考えた。自分はどうしても兵卒の食う半分も食わない。お時婆あさんも春も兵卒ほど飯を食いそうにはない。石田は直にお時婆あさんの風炉敷包の事を思い出した。そして徐にノオトブックを将・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫