・・・雑誌がビジネスとして立派に成立し、操觚者がプロフェッショナルとして完全に存在するを得るに到ったは畢竟時代の進歩であるが、博文館が此の趨勢に乗じて率先してビジネスとしての雑誌を創め各方面の操觚者を集めてプロフェッショナルとしても存在し得る便宜・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・この本は生の臭覚の欠けたいわゆる腐儒的道学者の感がなく、それかといって芸術的交感と社会的趨勢とに気をひかれすぎて、内面的自律の厳粛性の弱くなったきらいがなく意志の自律性を強靭に固守する点で形式的主観的でありながら、人間行為の客観的妥当性を強・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ これは明治維新以来の欧化趨勢の一般的な時潮の中にあったものであり、自覚的には、思想的・文化的水準の低かった日本の学者や、思想家としてはやむをえない状態でもあったのである。 けれどもいつまでもそうあるべきではなく、人生、思想、芸文、・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ これは全くの素人考えの空想であるが、しかし現代の生化学の進歩の趨勢には、あるいはこんな放恣な空想に対する誘惑を刺激するものがないでもないように思われるのである。 これとは話が変わるが、若い人にはとにかくとしても、もはや人生の下り坂・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・ それで、各地方でこういう風の日々変化の習性に通じていれば、その変化の異常から天気の趨勢を知る手がかりが得られるわけである。たとえば東京で夏の夕方風がなげば、それは南がかった風の反対するような気圧傾度が正常の傾度に干渉している、すなわち・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・そうして一時は仏説などの因果の考えとは全く背馳する別物であるかのように見えたのが、近ごろはまた著しい転向を示して来て、むしろ昔の因果に逆もどりしそうな趨勢を示すようにも見られるのである。 要するに科学の基礎には広い意味における「物の見方・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・いかなる赤誠があっても、それがその人一人の自我に立脚したものであって、そうしてその赤誠を固執し強調するにのみ急であって、環境の趨勢や民心の流露を無視したのでは、到底その機関の円滑な運転は望まれないらしい。内閣にしてもその閣僚の一人一人がいか・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・以上はただ一例に過ぎないが、私の観測したその他の場合にも、だいたいこれと同様な趨勢が認められるのである。 それでともかくも、全く顧慮なしにいつでも来かかった最初の電車に飛び乗る人にとっては、すいたのにうまく行き会う機会が少なくて、込んだ・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・ただ、近来わが国固有文化に関する研究が急激に盛んになって来たのに気がついて、愉快に感じると同時に自分も知らず知らずその趨勢に刺激されて、つい柄にない方面にまで空想の翼を延ばしたくなったようなわけである。杜撰な考証に対してもし識者の教えを受け・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・ 五階には時々各種の美術展覧会が催される、今の美術界の趨勢は帝展や院展を見なくてもいくぶんはここだけでもうかがわれる、のみならずそういう大きな展覧会に出ない人たちの作品まで見られる便利がある、そして入場は無料である。 ここではまたい・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
出典:青空文庫