・・・ 答えがないので、為さんはそっと紙門を開けて座敷を覗くと、お光は不断着を被ったまままだ帯も結ばず、真白な足首現わに褄は開いて、片手に衣紋を抱えながらじっと立っている。「為さん、お前さん本当にそんなことを言ったのかね?」「ええ」と・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・右足の足首のところが、いや、私はさすがに言うに忍びない。松葉杖をついて、黙って私の前をとおって行きました。 太宰治 「東京だより」
・・・ ついでながら、揺れる電車やバスの中で立っているときの心得は、ひざの関節も足首の関節も柔らかく自由にして、そうして心もちかかとを浮かせて足の裏の前半に体重をもたせるという姿勢をとるのだそうである。大地震の時に倒れないように歩くのも同じ要・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・ 尻からげして、三吉は、こんどは土堤道をあと戻りし、やがて場末の町にはいってきた。足首を白いほこりに染めながら、小家ばかりの裏町の路地を、まちがえずに入ってくる。なにかどなりながら竹箒をかついで子供をおっかけてきた腰巻一つの内儀さんや、・・・ 徳永直 「白い道」
・・・の足かせを、今年もこの人々は好んで自分の足首につけておくのでしょうか。 前年にある程度の成果をもって活動した広範囲の民主的作家の活動は、本年になればそれぞれに辿って来たテーマを発展させ、よりひろい社会的な文学に進むだろうと思います。民主・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
出典:青空文庫