・・・のみならずいきなり立ち上がると、べろりと舌を出したなり、ちょうど蛙の跳ねるように飛びかかる気色さえ示しました。僕はいよいよ無気味になり、そっと椅子から立ち上がると、一足飛びに戸口へ飛び出そうとしました。ちょうどそこへ顔を出したのは幸いにも医・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・餌食がその柔かな白々とした手足を解いて、木の根の塗膳、錦手の木の葉の小皿盛となるまでは、精々、咲いた花の首尾を守護して、夢中に躍跳ねるまで、楽ませておかねばならん。網で捕ったと、釣ったとでは、鯛の味が違うと言わぬか。あれ等を苦ませてはならぬ・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・ 銀杏の葉ばかりの鰈が、黒い尾でぴちぴちと跳ねる。車蝦の小蝦は、飴色に重って萌葱の脚をぴんと跳ねる。魴ほうぼうの鰭は虹を刻み、飯鮹の紫は五つばかり、断れた雲のようにふらふらする……こち、めばる、青、鼠、樺色のその小魚の色に照映えて、黄な・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・そして、なんでも、ほかのものに、捕らえられそうになったら、できるだけの力を出して、跳ねるのです。」と、母親は教えました。 一日ましに、水の中は暖かになりました。そして、もはや、陰気ではなくなり、じっとしてはいられないように、明るい、かが・・・ 小川未明 「魚と白鳥」
・・・太い雨が竿に中る、水面は水煙を立てて雨が跳ねる、見あげると雨の足が山の絶頂から白い糸のように長く条白を立てて落ちるのです。衣服はびしょぬれになる、これは大変だと思う矢先に、グイグイと強く糸を引く、上げると尺にも近い山の紫と紅の条のあるのが釣・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・それはどうでも宜しいがかように子供が多うございますから、時々いろいろの請求を受けます。跳ねる馬を買ってくれとか動く電車を買ってくれとかいろいろ強請られるうちに、活動写真へ連れて行けと云う注文が折々出ます。元来私は活動写真と云うものをあまり好・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・音楽にあわせ、ハアハア 急所の手ばたきと掛声ばかりは一人前だが、若い男が飛んで跳ねる活溌な足さばきが、その年の小母さんにできようはずはない。ハア どっこいしょ!ハア そら、あぶない! たか・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・ 現代のソヴェトに於て筋肉たくましい二百人の青年が、スポーツ・シャツと股引といういでたちで、徒に台の上に並んで腕組みをしたまま、勝手に跳ねる石油や石炭を傍観しているというような情景は、全く観客の共感をよびおこさない。むしろ腹立たしく思わ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫