・・・止った所はもう一つの傾斜へ続く、ちょっと階段の踊り場のようになった所であった。自分は鞄を持った片手を、鞄のまま泥について恐る恐る立ち上った。――いつの間にか本気になっていた。 誰かがどこかで見ていやしなかったかと、自分は眼の下の人家の方・・・ 梶井基次郎 「路上」
・・・ 気の変な老紳士は観客を笑わせる。踊り場でピストルをひねくり回し、それを取り上げられて後にまた第二のピストルをかくしに探るところなどは巧みに観客を掌上に翻弄しているが、ここにも見方によればかなりに忠実な真実の描写があり解剖がありデモンス・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・その狭い入り口から急な階段を上がると、中段の踊り場に花売りの女がいた。それを見ると妙に悲しかった。なぜかわからない。 大きな日本座敷の中にベンチがたくさん並んでいる。そこで何か法事のような儀式が行なわれているか、あるいはこれから行なわれ・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ ベランダから池の向こうの踊り場を正視していたときに、正面から左方約四十五度の方向で仰角約四十度ぐらいの高さの所を一つの火の玉が水平に飛行したというのである。その水平経路の視角はせいぜい二三十度でその角速度は、どうもはっきりはしないが、・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・ これがこの世で踊った二人の最後の踊りともしらず、カッスル夫人は、自分たちの結婚記念の夜、二人にとって思い出の深い踊り場で、良人が指図しておいた舞踊曲の奏されるのを聴きながら、良人のあらわれるのを待っている。時は徒にすぎて、遂にカッスル・・・ 宮本百合子 「表現」
出典:青空文庫