・・・うと思ったか知ンねえけんど、今の旦那様三代めで、代々養なわれた老夫だで、横のものをば縦様にしろと謂われた処で従わなけりゃなんねえので、畏ったことは畏ったが、さてお前様がさぞ泣続けるこんだろうと、生命が縮まるように思っただ。すると案じるより産・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・お前に浮かぬ顔して引っ込んでいられると、おらな寿命が縮まるようだったわ」 中しきりの鏡戸に、ずんずん足音響かせてはや仕事着の兄がやってきた。「ウン起きたか省作、えい加減にして土竜の芸当はやめろい。今日はな、種井を浚うから手伝え。くよ・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・伸びるのは縮まるためであり、縮むのは伸びるためである。伸びるのが目的でもなく縮むのが本性でもなく、伸びたり縮んだりするのが生きている心臓や肺の役目である。これが伸び切り、縮み切りになるときがわれわれの最後の日である。 弛緩の極限を表象す・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ この怪物の力で距離が縮まる、時間が縮まる、手数が省ける、すべて義務的の労力が最少低額に切りつめられた上にまた切りつめられてどこまで押して行くか分らないうちに、彼の反対の活力消耗と名づけておいた道楽根性の方もまた自由わがままのできる限り・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・に僕たちは何だかお互の間が狭くなったような気がして前はひとりで広い場所をとって手だけつなぎ合ってかけて居たのが今度は何だかとなりの人のマントとぶっつかったり、手だって前のようにのばして居られなくなって縮まるんだろう。それがひどく疲れるんだよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・もう投げるようなたぐるようなことは考えただけでも命が縮まる。よしきっと書記になるぞ。」 ペンネンネンネンネン・ネネムはお銭を払って店を出る時ちらっと向うの姿見にうつった自分の姿を見ました。 着物が夜のようにまっ黒、縮れた赤毛が頭から・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫