・・・ようやく埒外に出れば、それからは流れに従って行くのであるが、先の日に石や土俵を積んで防禦した、その石や土俵が道中に散乱してあるから、水中に牛も躓く人も躓く。 わが財産が牛であっても、この困難は容易なものでないにと思うと、臨時に頼まれてし・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・それで躓くことなども無しに段々進んだ。物騒な代の富家大家は、家の内に上り下りを多くしたものであるが、それは勝手知らぬ者の潜入闖入を不利ならしむる設けであった。 幾間かを通って遂に物音一ツさせず奥深く進んだ。未だ灯火を見ないが、やがてフー・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・慌てて石に躓く事がある事を知っているからだ。 小林は、秋山よりも、もっと熟練工であった。だから、彼とても特別に急ぐような、見っともない事はしない。だが、「少し悠くりしすぎる」と思わずにはいられなかった。「おい。もう、半分燃えてるぞ!・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
出典:青空文庫