・・・ 椿岳は普通の着物が嫌いであった。身幅の狭いのは職人だといってダブダブした着物ばかり着ていた。或時は無地物に泥絵具でやたら縞を描いたのを着ていた。晩年には益々昂じて舶来の織出し模様の敷布を買って来て、中央に穴を明けてスッポリ被り、左右の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・当時の無頼漢は一見して、それと知られる風俗をしていた。身幅のせまい唐桟柄の着物に平ぐけをしめ、帽子は戴かず、言葉使は純粋の町言葉であった。三十年を経て今日銀座のカッフェーに出没する無頼漢を見るに洋服にあらざればセルの袴を穿ち、中には自ら文学・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・あるいは身幅の適したるものにても、田舎の百姓に手織木綿の綿入れを脱がしめ、これに代るに羽二重の小袖をもってすれば、たちまち風を引て噴嚔することあらん。 一国の政治は、いかにもその人民の智愚に適するのみならず、またその性質にも適せざるべか・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
出典:青空文庫