・・・「南無、身延様――三百六十三段。南無身延様、三百六十四段、南無身延様、三百六十五段……」 もう一息で、頂上の境内という処だから、団扇太鼓もだらりと下げて、音も立てず、千箇寺参りの五十男が、口で石段の数取りをしながら、顔色も青く喘・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・それは後に身延隠棲のところでも書くが、その至情はそくそくとしてわれわれを感動させるものがある。今も安房誕生寺には日蓮自刻の父母の木像がある。追福のために刻んだのだ。うつそみの親のみすがた木につくりただに額ずり哭き給ひけん こ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・たいへん御利益のある地蔵様だそうで、信濃、身延のほうからも参詣人が昼も夜もひっきりなしにぞろぞろやって来るのだ。見せ物は、その参詣人にドンジャンドンジャン大騒ぎの呼びかけを開始したのである。私は地団駄踏んだ。厄除地蔵のお祭りが二月の末に湯村・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
出典:青空文庫