・・・頭のてっぺんが平べったいような、渋紙色の長面をした清浦子は、太白の羽織紐をだらりと中央に立っていたが、軈て後を向き、赤いダリアの花一輪つみとった。それを、「童女像」のように片手にもって、撮影された。 一ときのざわめきが消えた。四辺は・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・ 暫く黙っていたが、せきは軈て、「作も仕様のない人間さ」と呟いた。仕事の為とは云いながら、小さい孫を押しつけて旅先に暮らすことの多い作造に不満を抱いているのだろうと志津は思った。全く、婆さんだけの家というのは、何故変に湿っぽいよ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・そして、軈て来る冬の仕事の手始めとして、先ず柴山の選定に村人達が悩み始める頃迄続いていった。三 まだ夕暮には時があった。秋三は山から下ろして来た椚の柴を、出逢う人々に自慢した。 そして、家に着くと、戸口の処に身体の衰えた・・・ 横光利一 「南北」
・・・彼らの憎悪と怨恨と反逆とは、征服者の予想を以て雀躍する。軈て自由と平等とはその名の如く美しく咲くであろう。その尽きざる快楽の欣求を秘めた肺腑を持って咲くであろう。四騎手は血に濡れた武器を隠して笑うであろう。しかし我々は、彼らの手からその武器・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫