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・・・せり上って来る熊谷次郎の髪も菊の花でできた鐙も馬もいちように小刻みに震動しながら、陰気な軋みにつれて舞台に姿を現して来るのだった。閑静な林町の杉林のある通りへ菊人形の楽隊の音は、幾日もつづけて、実際あるよりも面白いことがありそうにきこえて来・・・
宮本百合子
「菊人形」
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・・・そして、時々其が激しく油を切らして軋み合います。 その恐ろしい騒音は、地上の何処へ行っても聴えるものではございますまいか。 其と同時に、此の騒音の最中から、何等の諧調を求めて、微かながら認め得た一筋の音律を、急がずうまず辿って行く、・・・
宮本百合子
「C先生への手紙」