・・・するとそこには年の若い軍楽隊の楽手が一人甲板の上に腹ばいになり、敵の目を避けた角燈の光に聖書を読んでいるのであった。K中尉は何か感動し、この楽手に優しい言葉をかけた。楽手はちょいと驚いたらしかった。が、相手の上官の小言を言わないことを発見す・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・ そこで彼は、土地の軍楽隊に籍を置いたり、けちな管弦楽団の臨時雇の指揮をしたりして、口を糊しながら、娘の寿子を殆ど唯一人の弟子にして「津路式教授法」のせめてものはけ口を、幼い寿子に見出して来たのであった。 ところが、今日、寿子が弾い・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・ここから乗り込んだ青島守備隊の軍楽隊が艫の甲板で奏楽をやる。上のボートデッキでボーイと女船員が舞踊をやっていた。十三夜ぐらいかと思う月光の下に、黙って音も立てず、フワリフワリと空中に浮いてでもいるように。四月四日 日曜で早朝楽隊が賛・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 日比谷交叉点 十文字に馳る電車、赤い旗、青旗 白ズボンに赤すじの入った洋袴をつけた海軍軍楽隊の男が、三人ぬかるみをとびこえ公園に入った。公園の入口にはウインネッケ彗星大歓迎会 音楽と映画の夕べと云う立て札が出て・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫