・・・不意に軍用列車が襲撃された。 電線は切断されづめだった。 HとSとの連絡は始終断たれていた。 そこにパルチザンの巣窟があることは、それで、ほぼ想像がついた。 イイシへ守備中隊を出すのは、そこの連絡を十分にするがためであった。・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・それが全警備区に配分されて、配給や救護や、道路、橋の修理などにも全力を上げてはたらいたのです。軍用鳩も方々へお使いをしました。 同時に海軍では聯合艦隊以下、多くの艦船を派出して、関西地方からどんどん食料や衛生材料なぞを運び、ひなん者の輸・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・この時期になると、こわいものに近よらず、自分たちを守るのが精一杯、という気風が瀰漫して、その人々のために、幅ひろい、なだらかな、そして底の知れない崩壊への道が、軍用トラックで用意されていたのであった。 そのころ、文芸家協会の事務所が、芝・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ たった一人の非戦闘員である彼女を乗せた軍用列車は、信じられないほどののろさで平野を横切りながら、進んだり止ったりしてパリに近づいた。昨日研究所を出てから何一つ食べる暇のなかったマリアに、一人の兵士が雑嚢から大きなパンを出して彼女にくれ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・が、道普請は、昔そのためにされたのではない。軍用だった。帝政ロシアの権力が武力で、絹、皮革の産地チフリース、石油のバクー市を掌握するための近路として拵えたものなのだ。 近東の少数民族の大衆は、灼けつく太陽の熱や半年もつづく長い冬の中で原・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・自分たちだけは、様々の軍事上の名目を発明して、数の少い軍用機で、逸早く前線から本土へ逃げて翔びかえってしまった前線の指揮官があることを、これ迄何と度々耳にしていることだろう。軍人社会での階級のきびしさは、公的目的のための制度であったはずであ・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・多分イギリスの軍用飛行機が彼をのせて行くであろう。 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・戦争が進み、情報局がすべての文化統制を行って、文学者やその作品をすっかり軍用に統一しはじめた頃、ひろ子たち一群の作家は、不安な状況に陥った。一九四一年の一月から、ひろ子ははっきり作品発表を禁止されて、それからは却って、立場も心もちもきっちり・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・彼は無智な軍用ペンをふるって、ブルジョア異国趣味から狂気的民族主義へ飛躍しているのだ。 この実例だけでも、ブルジョア文学の領域内で、異国趣味を基礎とする国際主義は民族主義の泥沼にはまってついにファッショ化するものだということが十分明瞭に・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・ 白木屋の玄関に立っている案内がきをよむと、展覧会の会場はいくつもあり、近日中にえらい陸軍の軍人が来て景物に講演をやったり、軍用犬の実演をやって見せたりする日どりまで知らしてある。―― 御承知の通り、この頃は毎朝新聞をひろげると、満・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
出典:青空文庫