・・・に、インターナショナルをうたって引揚げて来た人々を見て政府がびっくりしたからといって、すぐその「驚き」の感情を「取締り」に転化させることのあやまりを警告していた。わたしたちの「驚き」は、反人民的な心理戦術に利用されるほど素朴であってはならな・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・美しいものもそれが一定の関係の下では醜いものと転化してゆく、その瞬間に対して敏感でありたいとも願うのである。〔一九四一年七月〕 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・この作品において、野間という作者は、そのころの左翼の学生運動を貫いていた日本に関する歴史的展望――「プロレタリア革命への転化の傾向をもつブルジョア民主主義革命の到来」の意味を十分理解して書いているし、その左翼グループから歴史的見とおしの上で・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・そういう場合は、無邪気で無責任なそして無智な観光者の異口同音さえ、その国の一般人の実際生活の上では案外の重圧と転化して上からかぶさって来ることもまれではないのである。 バックの中国についての感情は非常に深い。異国趣味なところは微塵もない・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・のをして滅ばしめよという風にその姿を克明に描くが、そこに我々は氏のデスペレートな、崩壊の面のみを認識してそこから新たな力の擡頭のあることを理解しない富農の暗い憤りが文章のセッサタクマというところへまで転化して現れているのである。〔一九三三年・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・という和歌の措辞法を巧に転化させた結びで技巧の老巧さをも示しているのであるが、「春やいづこ」にしろ、やはり『若菜集』に集められた詩と同じく、自然は作者の主観的な感懐の対象とされている。移りゆき、過ぎゆく自然の姿をいたむ心が抽象的にうたわれて・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・嘗て純文学の精神の守護であった芸術性はとんぼ返りをうって、鬼面人を脅かす類のものに転化したのである。 以上の瞥見は、私たちに今日、何を教えているであろうか。現実に即した観察は、批判精神というものが決して抽象架空に存在し得るものではなくて・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・同時に、作者はこの一篇の小説によって、感情の質的転化というものは、どんなに永年にわたる忍耐づよい社会的実践を経なければ獲得し難いものであるかという実例をも、われわれに示している。「風雲」の作者が、その真率でたゆみない天質によって、社会現・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ 日本のプロレタリア革命が民主主義革命の内から急速に転化されるものであるという解釈は、決して民主主義革命の何十年かが持続した後にプロレタリア革命に展開するであろうという見透しの上にはない。プロレタリア・農民・一般勤労階級を資本主義第三期・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・ ものごとの実体が一つのものから他のものへと転化してゆく瞬間は、何という機微だろう。 私たちは笑いの功徳を十分知っている。それだからといって、もし始終笑うことしか知らない人を見たら、誰しもそれを正常な心理の人として見ることは不可能で・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
出典:青空文庫