・・・そしてその転身の節目節目には必ず大作を書いているのだ。愛読者というものはそれでなくては作者にとってたのみにはならない。 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・太宰などは、サロンに於いて幾度か死亡、あるいは転身あるいは没落を広告せられたかわからない。 私はサロンの偽善と戦って来たと、せめてそれだけは言わせてくれ。そうして私は、いつまでも薄汚いのんだくれだ。本棚に私の著書を並べているサロンは、ど・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・こんにち、かつての大東亜圏の理論家のあるものは、きわめて悪質な戦争挑発者と転身して、反民主的な権力のために奉仕している。「プロレタリア文学における国際的主題について」は、それらの問題についてある点を語っているが、この評論のなかには、きょ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・が、引続いて起った長篇小説への要求、単行本発表への欲求の背景となった経済的な理由、発表場面狭隘の苦痛等と照らし合わせて観察すると、先ず横光氏によって叫ばれた純文学であって通俗小説であるという小説への転身宣言の暗黙のモメントとして、その市場を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・使徒パウロからユダヤ人サウルへの拙劣な転身をした。驚くほど破廉恥な諸矛盾をその本の中にさらけ出している。党及び政府の一般的な方針に反対する批判の権利だけを認めているジイドは、ソヴェト内でトロツキイストたちの大ぴらな声をきくことが出来ないのを・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・そして、牢やの中のあばずれは、ともかく表現したこの女優が、この人間的飛躍のクライマックスでしめした日本式転身の姿に、うたれた。山口淑子の俳優としての非力は、はからずも日本のきょうの社会がまだもっている人間成長のための障害の条件そのものをむき・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・ 社会情勢の波瀾が内外の圧力で純文学末期の無力な自我から最後の足がかりを引攫おうとしたとき、そのような苛烈な現実を歴史的な動きの中に把握してゆく精神を既に喪っていた自我がそれぞれのとりいそいだ転身の術によって自ら歴史の中に立つ気力を失っ・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・大体、明治維新そのものが、崩壊する武士階級の下級者と幕府より目の届きかねる遠い薩長で経済力を膨脹させて来た大名たちとが、利害を一にして、近代資本家貴族に転身しようとした動きであった。土地問題の近代にふさわしい処理の出来なかったのは、とりも直・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫