・・・この事は風俗画報『新撰名所図会』に『好古叢誌』の記事を転載して説いているから茲に贅せない。 わたくしの言わむと欲する所は、隅田川の水流は既に溝涜の汚水に等しきものとなったが、それにもかかわらず旧時代の芸術あるがために今もなお一部の人には・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・平生之を怠っていながら、一旦同書が現代文学全集中に転載せらるると見るや、奇貨居くべしとなし、俄に版権侵害の賠償を請求するが如きは貪戻言語に絶するものである。それにも係らず黙々として僕は一語をも発せず万事を山本さんに一任して事を済ませたのは、・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・という標題が目に触れたという冒頭が置いてあって、その次にこの無名式のいわゆる二十五日間が一字も変えぬ元の姿で転載された体になっている。 プレヴォーの「不在」という端物の書き出しには、パリーのある雑誌に寄稿の安受け合いをしたため、ドイツの・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・ 二十五歳という年を中心にして有職者を見くらべると男二百四十万人ばかりに対して女は百五十万人ばかりであるらしいけれども、朝日年鑑は昭和十四年版も十五年版も、同じ統計を転載しているから、実際の数の上では特にこの一二年間ずっと婦人の有職者が・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ 高等学校専門学校程度の教課書から、日本が世界に誇っていた古典文学のいくつかを原形のまま転載することが取りやめられるようになった事実は、小さいことのようであるが意味はなかなかに深い今日の文化文学の事象であると思う。その案を思いついた人々・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
出典:青空文庫