・・・ また髪は、何十度逢っても、姿こそ服装こそ変りますが、いつも人柄に似合わない、あの、仰向けに結んで、緋や、浅黄や、絞の鹿の子の手絡を組んで、黒髪で巻いた芍薬の莟のように、真中へ簪をぐいと挿す、何転進とか申すのにばかり結う。 何と絵蝋・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・しかし、それは棺桶を聯想させた。転進という、何かころころ転げ廻るボールを聯想させるような言葉も発明された。敵わが腹中にはいる、と言ってにやりと薄気味わるく笑う将軍も出て来た。私たちなら蜂一匹だって、ふところへはいったら、七転八倒の大騒ぎを演・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・ところが、生活慾の熾な、刻々と転進して行く生は、私を徒にいつまでも涙のうちに垂込めては置きますまい。激しい彼への思慕を持ちながら、それを語ることによりそれを追懐することによって恢復しつつ新らしい生活を歩み出します。 友達が出来ましょう、・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
出典:青空文庫