・・・ある時には自分が現在、広大な農園、立派な邸宅、豊富な才能、飲食物等の所有者であるような幻しに浮かされたが、また神とか愛とか信仰とかいうようなことも努めて考えてみたが、いずれは同じく自分に反ってくる絶望苛責の笞であった。そして疲れはてては咽喉・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・つい先日バラの苗やカンナの球根を注文するために目録を調べたときに所在をたしかめておいた某農園がここだと分かった。つまらない「発見」であるが、文字だけで得た知識に相当する実物にめぐり合うことの喜びは、大小の差はあっても質は同じようなものらしい・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ 昔のその学校の生徒、今はもう立派な検事になったり将校になったり海の向うに小さいながら農園を有ったりしている人たちから沢山の手紙やお金が学校に集まって来ました。 虔十のうちの人たちはほんとうによろこんで泣きました。 全く全くこの・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
この農園のすもものかきねはいっぱいに青じろい花をつけています。 雲は光って立派な玉髄の置物です。四方の空を繞ります。 すもものかきねのはずれから一人の洋傘直しが荷物をしょって、この月光をちりばめた緑の障壁に沿ってや・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・三井の横を抜け、竹藪を抜け、九品仏道と古風な石の道しるべについて行ったら、A氏の農園のすぐ横に出た。働いていたAさんと畑越しに大声で田園的挨拶を交す。 駒沢へ出る街道から右に切れると、畑の起伏が多く、景色は変化に富んで愉快であった。午後・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
・・・ 智識階級の二十―三十代 リーベ すきな人 倉知の俊が農園でつかう ヤ、こいつはデカ・メロンだ、でかいメロンだ。 ○ケイオーの学生「あいつ赤電のくせに悠々し・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・「あっちは、じゃがいもだ。農園刑務所だからね、囚人たちでつくっているんだ」「あなたなんか和裁工でも、じゃがいもぐらいは、たっぷりあがれたの?」「東京よりはよかったさ。――巣鴨のおしまい頃はひどかったなあ……これっぽっちの飯なんだ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・を理解し、スカーレット・オハラの強い性格が南北戦争の波瀾を通じて精力的に日々の生活ととっくみながら、いわゆる逞しく生きとおされながら、その窮極では一つも社会的な人間としての性格発展なしに、もとの自分の農園にかえってゆく、そのように通過された・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・実によく短いはっきりした筆で描写され、とくにマリイがヴィルヴィエイユの農園の羊番娘としての生活の姿は、四季の自然のうつりかわりと労働の結びつきの中に、無限の絵、ミレーの羊飼い女などのような絵と音楽とを感じさせる。オオドゥウのみずみずしく落着・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫