・・・経験を経験なりに辿るとしたら、それは題材のままで語っているということではなかろうか。芸術の制作という意味は、こういうところに在るのではないだろうか。 自分のとかく定着しようとするどちらかというと生物的な限界を、本当にテーマをつかんだ自分・・・ 宮本百合子 「作品と生活のこと」
・・・そのことは、私に、いろいろな身のまわりの出来ごと、自分の心の中の出来ごとにも、やはり辿るべき原因やその結果があるのだということを明瞭にした。 千葉先生には、何もわかっていなかっただろうが、私としては、この興味のふかい西洋史の時間のおかげ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・家が作家のタイプに関心をひかれて、タイプの共通にかかわらずそこに模する本質的なものについて余り注目を深めなかったり、歪曲された功用論への是正としての芸術本質論の方法において、文学の経た歴史の刻みを逆に辿る形をより強く示めさざるを得なかったよ・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・ここから、四人称という観念の発明が提出されているにも拘らず、作品の主調はあり合わす現実に屈服して全く通俗化の方向を辿るばかりとなった。 観念的な用語の上では一見非常に手がこんでいるように見えて、内実は卑俗なものへの屈従であるような現実把・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・順に行くとクリミヤで同じ道を辿るので、一つ此処で、ぐっと方向を換えよう。バクーへ行こう。そこで、やや性急に自分たちのバクー行となったのである。 二 バクーへ着いて見て、自分たちは些かこれはしまったと思った。・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・余り舞台もみていないから、したがって一人一人の俳優について、こまかくその芸術の変遷を辿るということも出来ない。 しかし、この間、何年ぶりかで「プラーグの栗並木の下で」を観て、俳優生活というものについて、これまでになく心を動かされるものが・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・過去の歴史の絵巻が示しているとおり文明があるところまで来てその文明の故にかえって文化を低めるようになる場合、文化の創造力というものは、常にもっとも多難な道を辿るものである。そして、その過程で婦人が負うてゆく文化性というものは、その国の社会の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ ヒューマニズムはいよいよ上昇線を辿る時代が近づいて来たと舟橋氏は云っておられる。ある人々の主観の中での昂りでなく、人間生活の歴史的動向に沿うて上昇し発展されなければなるまい。子供を愛すことも出来ないで何のヒューマニズムぞやと云いすてる・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・これを聞いて近所のものは、二人が出歩くのは、最初のその日に限らず、過ぎ去った昔の夢の迹を辿るのであろうと察した。 とかくするうちに夏が過ぎ秋が過ぎた。もう物珍らしげに爺いさん婆あさんの噂をするものもなくなった。所が、もう年が押し詰まって・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫