出典:青空文庫
・・・その時には近所合壁から大人までが飛び出して来て、あきれた顔をして配達車とその憐な子供とを見比べていたけれども、誰一人として事件の善後を考えてやろうとするものはないらしく、かかわり合いになるのをめんどうくさがっているように見えた。そのていたら・・・ 有島武郎 「卑怯者」
・・・ と幾度も一人で合点み、「ええ、織さん、いや、どうも、あの江戸絵ですがな、近所合壁、親類中の評判で、平吉が許へ行ったら、大黒柱より江戸絵を見い、という騒ぎで、来るほどに、集るほどに、丁と片時も落着いていた験はがあせん。」 と蔵の・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
数年前までは正月元旦か二日に、近い親類だけは年賀に廻ることにしていた。そうして出たついでに近所合壁の家だけは玄関まで侵入して名刺受けにこっそり名刺を入れておいてから一遍奥の方を向いて御辞儀をすることにしていたのであるが、い・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
・・・従来のような生活ぶりの作家たちが、自身の内にある所謂文壇的、文学的関心以外の諸要素、家庭的な感情だとか、近所合壁への義理だとか、些細な日常利害だとかを、直ちに自身の中の民衆的なるものだとすれば、それは大きい誤りなのである。 この点につい・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」