・・・よくは知らぬが、明治の初年に近時評論などで大分政府に窘められた経験がある閣臣もいるはず。窘められた嫁が姑になってまた嫁を窘める。古今同嘆である。当局者は初心を点検して、書生にならねばならぬ。彼らは幸徳らの事に関しては自信によって涯分を尽した・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・受けてこれを読むに、けだし近時英国の碩学スペンサー氏の万物の追世化成の説を祖述し、さらに創意発明するところあり。よってもってわが邦の制度文物、異日必ずまさになるべき云々の状を論ず。すこぶる精微を極め、文辞また婉宕なり。大いに世の佶屈難句なる・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・ 下 近時のわが文壇は殆んど小説の文壇である。脚本と批評はこれに次ぐべき重要の因数に相違ないが、分量からいっても、一般の注意を惹く点からいっても、遂に小説には及ばない。その小説について、斯道に関係ある我々の見逃し・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ こういうと何だか現在に甘んずる成行主義のように御取りになるかも知れないが、そう誤解されては遺憾なので、私は近時の或人のように理想は要らないとか理想は役に立たないとか主張する考は毛頭ないのです。私はどんな社会でも理想なしに生存する社会は・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・(徳川をはじめとして諸藩にても新に寺院を開基し、または寺僧を聘 また近時の日本にて、開国以来大に教育の風を改めて人心の変化したるは外国交際の刺衝に原因して、その迅速なること古今世界に無比と称するものなれども、なおかつ三十の星霜を費し、然・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ 今試みに社会の表面に立つ長者にして子弟を警め、汝は不遜なり、なにゆえに長者につかえざるや、なにゆえに尊きを尊ばざるや、近時の新説を説きて漫に政治を談ずるが如きは、軽躁のはなはだしきものなりと咎めたらば、少年はすなわちいわん。君は前年な・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 欧州近時の文明は皆、この物理学より出でざるはなし。彼の発明の蒸汽船車なり、鉄砲軍器なり、また電信瓦斯なり、働の成跡は大なりといえども、そのはじめは錙朱の理を推究分離して、ついにもって人事に施したる者のみ。その大を見て驚くなかれ、その小・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
○ベースボール に至りてはこれを行う者極めて少くこれを知る人の区域も甚だ狭かりしが近時第一高等学校と在横浜米人との間に仕合ありしより以来ベースボールという語ははしなく世人の耳に入りたり。されどもベースボールの何たるやはほとん・・・ 正岡子規 「ベースボール」
出典:青空文庫