・・・当日には近村からさえ見物が来たほど賑わった。丁度農場事務所裏の空地に仮小屋が建てられて、爪まで磨き上げられた耕馬が三十頭近く集まった。その中で仁右衛門の出した馬は殊に人の眼を牽いた。 その翌日には競馬があった。場主までわざわざ函館からや・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 四 土屋の家では、省作に対するおとよの噂も、いつのまにか消えたので大いに安心していたところ、今度省作が深田から離縁されて、それも元はおとよとの関係からであると評判され、二人の噂は再び近村界隈の話し草になったので、家じゅう顔・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・それから近村の小作人、出入りの職人まで寄り集まって盛んな祝いであった。近親の婦人が総出で杯盤の世話をし、酌をする。その上、町から芸者を迎えて興を添えさせるのが例なので、この時も二人来ていた。これも祝いのあるうちは泊まっているので、池の向こう・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
出典:青空文庫