・・・「手前、御存じの少々近視眼で。それへこう、霞が掛りました工合に、薄い綺麗な紙に包んで持っているのを、何か干菓子ででもあろうかと存じました処。」「茱萸だ。」と云って雑所は居直る。話がここへ運ぶのを待構えた体であった。「で、ござりま・・・ 泉鏡花 「朱日記」
大学生、三浦憲治君は、ことしの十二月に大学を卒業し、卒業と同時に故郷へ帰り、徴兵検査を受けた。極度の近視眼のため、丙種でした、恥ずかしい気がします、と私の家へ遊びに来て報告した。「田舎の中学校の先生をします。結婚するか・・・ 太宰治 「律子と貞子」
・・・その紳士がいかに平気な顔をして得意であるか、彼らがいかに浮華であるか、彼らがいかに空虚であるか、彼らがいかに現在の日本に満足して己らが一般の国民を堕落の淵に誘いつつあるかを知らざるほど近視眼であるかなどというようないろいろな不平が持ち上って・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫