・・・形式にしばられれば、徳育も一つの頽廃であることは明らかだと思う。 小学校の先生の不足はこの二三年来到るところで云われている。八年制になると、先生の補給は、どうなるだろう。小学校の先生の過労も注目されて来ている。音楽の先生などは、これまで・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・いち早く、フランスは頽廃した文化主義で敗れたというような解説者に対して、常識はそれが全部の答えでないことを直感していた。 モーロアの『フランス敗れたり』はこの心持に迎えられて出たのだから、読まれたのは当然だと思う。おそらくあらゆる職業と・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・忽ち新聞に、フランスは文化の爛熟と頽廃とが原因で敗れた、と説明する文章があらわれた。ローマが崩壊したのは有名な「何処へ行く」で私たちにも馴染なネロのような王が現れるほど暴虐と頽廃が支配したからだと西洋歴史で習ったから、今フランスは文化の頽廃・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 百円札を出して、これだけ本を下さいと云ったという若い職工さんの俤も、人生的な又文化の情景として見れば、そこに何といたましい若き可能性の浪費と頽廃が閃めいていることだろう。作家が現実に居直ることと常識に居坐ることとの差は必ず読者の在りよ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・私もまた彼の頽廃について責めを負うべき位置にあるのです。ことに私は彼のためにどれだけ物的の犠牲を払ってやりましたか。物的価値に執する彼の態度への悪感から私はむしろそういう尽力を避けていました。そうしてこの私の冷淡は彼の態度をますます浅ましく・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・そうして、ほんとうの生の頽廃まで行かないにしても、とにかく道義的脊骨を欠いた、生に対して不誠実な、なまこのような人間になってしまいます。これは確かに大きい危険です。 それでは青春を厳格に束縛し鍛錬して行くのがいいか。――もちろんそれはい・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・戦争のもたらした残酷な不具癈疾、神経及び精神の錯乱、女子及び青年の道徳的頽廃、――これらの恐ろしかるべき現象も、ただ空間の距たりのゆえに我々にはほとんど響いて来ない。 しかしこの直接印象の希薄は、想像力の集中と、省察の緊張とによって、あ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・になるはずの頽廃者に過ぎなかった。潰滅よりもさらに烈しい苦痛を忍び、忘却が到底企て及ばざる突破の歓喜を追い求むる者こそ、真に生き真に成長する者と呼ばるべきであった。心が永遠の現在であり、意識の流れに永遠が刻みつけられていることを、ただこの種・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・という言葉で言い現わしたのは、病的、変態的、頽廃的な印象である。伎楽面的な美を標準にして見れば、能面はまさにこのような印象を与えるのである。この点については自分は今でも異存がない。 しかし能面は伎楽面と様式を異にする。能面の美を明白に見・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
・・・そのような苦患と歓喜とは、息をしている死人や腐った頽廃者などの特権だ。 苦患は戦いの徴候である。歓喜は勝利の凱歌である。生は不断の戦いであるゆえに苦患と離れることができない。勝利は戦って獲られるべき貴い瞬間であるゆえに必ず苦患を予想する・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫