・・・ 他のお客は、このあわれなる敗北者の退陣を目送し、ばかな優越感でぞくぞくして来るらしく、「ああ、きょうは食った。おやじ、もっと何か、おいしいものは無いか。たのむ、もう一皿。」と血迷った事まで口走る。酒を飲みに来たのか、ものを食べに来・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・その記事の傍らに見るものは、連日連夜にわたる幣原、三土、楢橋の政権居据りのための右往左往と、それに対する現内閣退陣要求の輿論の刻々の高まり、さらにその国民の輿論に対して、楢橋書記翰長は「院外運動などで総辞職しない」「再解散させても思う通りに・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 僅か数年ではあったとしても、過去の云うところの教養を身につけていない新鮮さを寧ろ文学の世代としてのよりどころとして発足しようとしていた若い作家たちにとって、退陣の形としてあらわれた過去の教養の尊重の流行は、多くの混迷をわきおこした。そ・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・青森市では、記載もれの市民大会が開かれ、市長以下責任者が退陣しなければならなくなった。長野の或るところでは、役場の責任者が、責任感から行方不明となり、自殺したかもしれないと云われている。 このような大量な記載もれの生じた原因は、何だった・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・このようなところにも世の乱れとてぜひもなく、このころ軍があッたと見え、そこここには腐れた、見るも情ない死骸が数多く散ッているが、戦国の常習、それを葬ッてやる和尚もなく、ただところどころにばかり、退陣の時にでも積まれたかと見える死骸の塚が出来・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫