・・・昔の『新思潮』が作家を送り出した時代の文壇は――つまりインテリ貴族で文壇をつくる根本の気持が芸術至上主義的で、世間の人間――俗人とは俺達は違うぞという気分の上に立っていたと思う。今ではインテリの商品価値がブルジョア経済の上で下落して来た。文・・・ 宮本百合子 「文壇はどうなる」
・・・ 送り出してしまうと、尾世川は、「やあ」と云いながら、照れたような生真面目な顔をして藍子の傍へとってかえした。「どうも失礼してしまいました。どうぞ」「いいんですか」「ええ、どうぞ」 二階に、今の客が敷きのこして行・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・客達を送り出しておいてから彼はよくゴーリキイを泊らせた。ゴーリキイとデレンコフとは「部屋を掃除し、それから床の絨毯の上に横わりながら、わずかに燈明の光りだけに照らされた暗の中で長いこと親しく囁き声で話し合った。」デレンコフは信頼のこもった静・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 油井は、ね、ね、を特別な眼つきと言葉の調子とで云い、みのえを玄関へ送り出してキスした。 再び油井の家へ帰って来た時も油井が直ぐ二階から降りて来た。そして、みのえの手を引っぱって二階へ連れ上った。 ――云いたいことが沢山あるよう・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・してみれば、現代文学における作家横光利一の発生、評論家小林秀雄の誕生そのものに今日につづく多くの歴史的要因がこめられていたのであるし、更に日本浪曼派の評論家保田与重郎の文学的出生には前の二人の人たちを送り出した歴史の性格の数歩前進した或る契・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・安国寺さんを送り出してから、私は夕食をして馬借町の宣教師の所へフランス語を習いに往った。 そんな風であったから、私が小倉を立つ時、停車場に送ってくれた同僚やら知人やらは非常に多かったが、その中で一番別を惜んだものは安国寺さんであった。「・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・父王の千人の妃たちの憎悪と迫害がこの新王の美しい妃に集まり、妃を孤立させるために相人を利用して新王を遠い地方へ送り出してしまう。守り手のない妃のところへは武士をさし向け、妃を山中に拉して首を切らせる。そうして、ここにも首なき母親の哺乳が語ら・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫