・・・これを文芸の堕落というのは通じる。保護というに至ってはその意味を知るに苦しまざるを得ない。 中 一家の批判を、一家として最後最上の批判と信ずるのに、何人も喙を容れようがない。けれどもそれをして比較的普遍ならしめん・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ これは、ブルジョアジーと、プロレタリアートとの間にも通じる。 プロレタリアは「鰹節」だ。とブルジョアジーは考えている。 プロレタリアは、「俺達は人間」だ。「鰹節」じゃない。削って、出汁にして、食われて失くなってしまわねばならな・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・こういう文章のたちと、こういうテーマの扱い方の小説は、今日めいめいの青春を生きている読者たちにとって、『白樺』の頃武者小路氏の文学が周囲につたえた新しい脈動とはおのずから性質の違った親愛、わかりよさに通じるようなものとして受けいれられるのだ・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・だが、それには世界に通じることばがなければならない。「民主的日本の女性から」という生きたことばが確立されなければならない。〔一九四七年二月〕 宮本百合子 「明日の知性」
・・・自分から俺は悪七兵衛景清と名のって、髪を乱して、妻子にわざとむごい言葉を与えて、自らを敵意のうちに破る景清の姿と、その若くない荒繩をひきずった犬の姿とには、何か印象のなかで通じるものをもっている。 おい、お前は景清のようだよ。知ってるか・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・ 工場内へ通じる狭い柵の横に一人赤衛兵と、二三人の男がかたまっている。そこは一本の廊下だがその辺には工場委員会共産党青年ヤチェイカの札が見えるだけで、どこに新聞発行所があるかわからない。 自分は、柵のところに立ってる男に、「新聞発行・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ローレンスの反抗は、フランスの自然主義の初期、その先駆者ゾラなどが、近代科学の成果、その発見を文学にうけ入れるべきだとして、科学書からの抜萃をそのまま小説へはめこんだ、その試みの精神と通じるところがある。 ローレンスは、一方でそのように・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・の線に近づいた傾きを示した作品であったが、ここでは、既に作者の習慣のようになった、あれこれを題材的に按配して書く、という大衆小説の手法に通じる外面的な方法がやはり消極の作用を示した。作品としての現実が渾然と読者の心を撃つというよりは、調査し・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・山の彼方の空を眺め、山の頂をはるかに通じる一筋の道を眺めたものにとって、窓をしめ、地球の円さは村境できれているように思いこみ、この村ばかりの優秀を誇るというのは、不自然で息苦しく愚劣にたえがたいしまつであった。徳川時代の民が土下座したとき、・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・いに、ああと巻を閉じたとき、やがてまたもう一遍パラパラと頁をめくりかえさずにはいられない感動が心に鳴っているとき、アンナを通して印象された悲劇のなかにも輝く美の感じが、幸福と呼びならわされている感覚に通じる性質のものであることを感じとらない・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
出典:青空文庫