・・・憐れなる子規は余が通信を待ち暮らしつつ、待ち暮らした甲斐もなく呼吸を引き取ったのである。 子規はにくい男である。嘗て墨汁一滴か何かの中に、独乙では姉崎や、藤代が独乙語で演説をして大喝采を博しているのに漱石は倫敦の片田舎の下宿に燻って、婆・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』中篇自序」
・・・「キッコ、キッコ、うな通信簿持って来たが。おら忘れで来たぢゃあ。」「わあい、さの、木ペン借せ、木ペン借せったら。」「わあがない。ひとの雑記帳とってって。」 そのとき先生がはいって来ましたのでみんなもさわぎながらとにかく立ちあ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・拘禁生活をさせられていた人々ばかりでなく、どっさりの人は戦地におくられて、通信の自由でなかった家郷の愛するものの生死からひきはなされて、自分たちの生命の明日を知らされなかった。 きょう読みかえしてみると、日本の戦争進行の程度につれて・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・それは日本の内にひそんでいる戦争挑発者によってそそのかされてジャーナリズムの上に現れるばかりでなく、在パリその他の外国都市に生活する人、旅行している人々の通信が、ルポルタージュの形をとりながら大きく歪曲をふくんでいる場合が少くない。 ま・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・小説の形をとっているけれども、題材は、ソヴェトの新聞にでていた農村通信の記事だったと記憶する。だから現実に或るコルホーズに起ったエピソードであった。こんにちよみかえすと、小説としてはごく単純だけれども、それぞれの農村でコルホーズがどんな過程・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・「お互いにしばらくは、通信もできないかも知れません。パリは平静です。出征する人たちの悲しみは見られますが、一般に好ましい印象を与えています。」 彼女は落着いた文章のうちに情熱をこめて、小国ながら勇敢なベルギーは容易にドイツ軍の通過を・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花の咲いたひろい通路を歩いていたら、こっちでは電熱炉で鉄を溶かしている鍛冶部の向い側のどこかで、嬉しそうなピアノの音がしはじめた。「セルマシストロイ」は巨大工場で未完成だ。各部がまだクラブを・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 職場の壁新聞・工場新聞は、三十万人の労働通信員、農村通信員に意見発表の機会を与えているばかりではない。やっと二年前に文字を書くことを覚えた六十の婆さんに向っても、開放されている。工場内には、はじめ、極く日常の出来事に関する感想を壁新聞・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 忠利の許しを得て殉死した十八人のほかに、阿部弥一右衛門通信というものがあった。初めは明石氏で、幼名を猪之助といった。はやくから忠利の側近く仕えて、千百石余の身分になっている。島原征伐のとき、子供五人のうち三人まで軍功によって新知二・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・多分どの通信社かの手で廻したのだろう。しかし平凡極まる記事なので、読んで失望しないものはなかった。「小石川区小日向台町何丁目何番地に新築落成して横浜市より引き移りし株式業深淵某氏宅にては、二月十七日の晩に新宅祝として、友人を招き、宴会を・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫