・・・すると向うへ落ち着いてから、まだ一月と経たない中に、思いもよらず三浦から結婚の通知が届いたじゃありませんか。その時の私の驚きは、大抵御想像がつきましょう。が、驚いたと同時に私は、いよいよ彼にもその愛の相手が出来たのだなと思うと、さすがに微笑・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
たね子は夫の先輩に当るある実業家の令嬢の結婚披露式の通知を貰った時、ちょうど勤め先へ出かかった夫にこう熱心に話しかけた。「あたしも出なければ悪いでしょうか?」「それは悪いさ。」 夫はタイを結びながら、鏡の中のた・・・ 芥川竜之介 「たね子の憂鬱」
・・・隆殿の先人に対し面目なく、今さら変替相成らず候あわれ犠牲となりて拙者の名のために彼の人に身を任せ申さるべく、斯の遺言を認め候時の拙者が心中の苦痛を以て、御身に謝罪いたし候 月 日清川通知 お通殿 二度三度繰・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・この前日、夫人像出来、道中安全、出荷という、はがきの通知をうけていた。 のち二日目の午後、小包が届いたのである。お医師を煩わすほどでもなかった。が、繃帯した手に、待ちこがれた包を解いた、真綿を幾重にも分けながら。 両手にうけて捧げ参・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ そこへ通知してあったのだろう、青木がやって来た。炉のそばへ来て、僕と家のものらにちょっと挨拶をしたが、これも落ちつきのない様子であった。「まだお宅へはお話ししてないけれど、きょう私がいよいよ吉弥を身受け致します。おッ母さんがやって・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・社員に一言の挨拶もなく解散するというは嚶鳴社以来の伝統の遺風からいっても許しがたい事だし、自分の物だからといって多年辛苦を侶にした社員をスッポかして、タダの奉公人でも追出すような了簡で葉書一枚で解職を通知したぎりで冷ましているというは天下の・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・しかし、急に思いたってきたので、通知もしなかったから、この小さな寂しい停車場に降りても、そこに、上野先生の姿が見いだし得ようはずがなかったのです。 手に、ケースを下げて、不案内の狭苦しい町の中へはいりました。道も、屋根も、一面雪におおわ・・・ 小川未明 「青い星の国へ」
・・・履歴書を十通ばかり書いたが、面会の通知の来たのは一つだけで、それは江戸堀にある三流新聞社だった。受付で一時間ばかり待たされているとき、ふと円山公園で接吻した女の顔を想いだした。庶務課長のじろりとした眼を情けなく顔に感じながら、それでも神妙に・・・ 織田作之助 「雨」
・・・は、たぶん新聞の誤植であろうと、道子は一応考えたが、しかしひょっとして同じ大阪から受験した女の人の中に自分とよく似た名の田村道子という人がいるのかも知れない、そうだとすれば大変と思って、ひたすら正式の通知を待ちわびた。 合格の通知が郵便・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・ 二月の吉日、式を挙げて、直ぐ軽部清正、同政子と二人の名を並べた結婚通知状を三百通、知人という知人へ一人残らず送った。勿論私の入智慧、というほどのたいしたことではないけれど、しかしそんな些細なことすら放って置けばあの人は気がつかず、紙質・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
出典:青空文庫