・・・そのほかまだ何だ彼だといろいろな打撃を通算したら、少くとも三万円内外は損失を蒙っているのに相違ない。――そんな事も洋一は、小耳に挟んでいたのだった。「ちっとやそっとでいてくれりゃ好いが、――何しろこう云う景気じゃ、いつ何時うちなんぞも、・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・一九三二年から四〇年いっぱいといえば八年の年月だが、その間には一九三八年から翌年の初夏までつづいた作品の発表禁止の期間がはさまり、通算六百日ばかりの拘禁生活の期間がある。ここに集められている評論、伝記は主として一九三七年一九三九、四〇年にか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・各取引ごとに一パーセントとされているこの税も一年間の負担を通算すれば、各人四パーセントから五パーセントの支出となる。赤字家計は三千七百円ベースでは支えきれない。文化面で一冊の書籍は、これまでの定価になかった五パーセントの取引税を読者のポケッ・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・その数は一年を通算すれば決して尠くないことも事実らしい。図書館は小規模の博物館を兼ねているのだ。豊富な資料を各箇人が持ち合わせながら、組織立った博物館にして見る気にならない長崎人の心持も、私は興味を以て感じた。ざっと見ただけだが、その気分を・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・予がこれに費した時間も、前後通算して一週間にだに足るまい。予がもし小説家ならば、天下は小説家の多きに勝えぬであろう。かように一面には当時の所謂文壇が、予に実に副わざる名声を与えて、見当違の幸福を強いたと同時に、一面には予が医学を以て相交わる・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫