・・・従って、この特徴と重写の技巧とを併用すれば、一粒の芥子種の中に須弥山を収めることなどは造作もないことである。巨人の掌上でもだえる佳姫や、徳利から出て来る仙人の映画などはかくして得られるのである。このようにカメラの距離の調節によって尺度の調節・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・あの大きな口の中の造作でも、それが大写しになってそれだけになって現われるときに始めて吾々は十分な注意をそれに集中することが出来るのである。それは外に注意を牽制すべき何物もないからである。それだからたとえ手近に動物園がある場合でも動物園の映画・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・しかも、その嫌疑が造作もなく晴れるようではこの「与太者ユーモレスク、四幕、十一景」は到底引き延ばせるはずがないので、それで、この嫌疑をなるべく濃厚に念入りにするために色々と面倒な複雑なメカニズムが考案されなければならないのである。こういう考・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・我輩は仕方がないから話しは分らぬものと諦めてペンの顔の造作の吟味にとりかかった。温厚なる二重瞼と先が少々逆戻りをして根に近づいている鼻とあくまで紅いに健全なる顔色とそして自由自在に運動を縦ままにしている舌と、舌の両脇に流れてくる白き唾とをし・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 赤ん坊の手を捻るのは、造作もねえこった。お前は一人前の大人だ。な、おまけに高利で貸した血の出るような金で、食い肥った立派な人だ。こんな赤ん坊を引裂こうが、ひねりつぶそうが、叩き殺そうが、そんなこたあ、お前には造作なくできるこった。お前・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ そして造作もなく、彼の、南京虫だらけの巣へ投り込んだ。 一々そんなことに構っちゃいられないんだ。それに、病人は、水の中から摘み出されたゴム鞠のように、口と尻とから、夥しく、出した。それは、デッキへ洩れると、直ぐにカラカラに、出来の・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・それにあすこまでは牧場の道も立派にあるから、材料を運ぶことも造作ない。ぼくは工作隊を申請しよう。」 老技師は忙しく局へ発信をはじめました。その時足の下では、つぶやくようなかすかな音がして、観測小屋はしばらくぎしぎしきしみました。老技師は・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・顔の造作の小さい茶色の頬骨のとび出た男である。 肥料を自分の畑ばかりへ、沢山やると云って、祖母はあんまりよくは思って居ない。一杯の酒を一時間もかかって飲む。おできのあとか何か、頭の殆ど中央に一銭銅貨位のおはげがあるのが皆をやたらに笑わせ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・の中に使われている言葉について、家の造作について、着物の色合について、一つの字引のようなものさえできているような研究がございます。けれども、日本の国家が文化政策の中で「源氏物語」をどんなに評価して来たかと考えると、意味深い面白さがあります。・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・生まれ変わる代わりに、竹べらで自分の顔の造作を造り変えようとする。あまりにたわいがない。 彼らはまず、自分たちのとは違った自然の見方をほんとうに心底から理解してみなくてはいけない。私は彼らが性慾を重んじるからいけないというのではない。彼・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫