・・・そのように少なくも二千年かかって研究しつくされた結果に準拠して作られた造営物は昨年のような稀有の颱風の試煉にも堪えることが出来たようである。 大阪の天王寺の五重塔が倒れたのであるが、あれは文化文政頃の廃頽期に造られたもので正当な建築法に・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 人類がまだ草昧の時代を脱しなかったころ、がんじょうな岩山の洞窟の中に住まっていたとすれば、たいていの地震や暴風でも平気であったろうし、これらの天変によって破壊さるべきなんらの造営物をも持ち合わせなかったのである。もう少し文化が進んで小・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・それでこういう意味で現在の物理学はたしかに人工的な造営物であってその発展の順序にも常に人間の要求や歴史が影響する事は争われぬ事実である。 物理学を感覚に無関係にするという事はおそらく単に一つの見方を現わす見かけの意味であろう。この簡単な・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・クレムリンを博物館とすべきための造営である。 その他、何になるのかわからない大きな建築工事がいたるところにある。板がこいから空へつき出した起重機の頂に赤旗をひるがえしながら煉瓦、石灰の俵、トラクターの重いわだちがかたちをくずした泥の中で・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・或は唯造営者の気稟の相異だけでこうも違うのか。私共は解答者を得ない疑問を持ち合ったまま、再び山門を出た。唐門の剥落した朱の腰羽目に、墨でゴシック風の十字架の落書がしてあった。木庵の書、苑道生の十八羅漢の像などを蔵しているらしいが時間がおそく・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫