・・・というややこしい名前は、当然、小便たんごを連想させるが、昔ここに小便の壺があった。今も、ないわけではない。よりによって、こんな名前をつけるところは法善寺的――大阪的だが、ここの関東煮が頗るうまいのも、さすが大阪である。一杯機嫌で西へ抜け出る・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・そしてちょっと不思議に感じられたのは、その文面全体を通じて、注意事項の親族云々を聯想させるような字句が一つとして見当らないのだが、それがたんに同姓というだけのことで検閲官の眼がごまかされたのだろうとも考えられないことだし、してみると、この文・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・また○○の木というのは、気根を出す榕樹に連想を持っていた。それにしてもどうしてあんな夢を見たんだろう。しかし催情的な感じはなかった。と行一は思った。 実験を早く切り上げて午後行一は貸家を捜した。こんなことも、気質の明るい彼には心の鬱した・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・ハートゥレイによれば道徳的情操は、他の高尚な諸感情とともに、感覚に伴う快、不快の念から連想作用によって発生したものである。彼は同情も、仁愛も利己的な快、不快の感から導き出した。初めは快、不快な結果を好悪する心から徳、不徳を好悪したのだが、広・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・快楽の独立性は必ず物的福利を、そして世間的権力を連想せしめずにはおかぬ。人間がそうした見方を持つにいたればもはや壮年であって、青春ではないのである。 事実として青春の幸福はそこから去ってしまうのだ。如何に多くのイデアリストの憧憬に満ちた・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 彼は、ひょっと連想した。「どんな奴だ?」「不潔な哀れげな爺さんだ。」「君は、その爺さんと知り合いかって訊ねられただろう?」松本は意味ありげにきいた。「いや。」「露西亜語を教わりに行く振りをして、朝鮮人のところへ君は・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・同じ村で時々顔を見合わしていても近づき難い女だった――両人は思い出すともなく、直ちに、その娘を聯想した。 彼等は嫁が傍にいると、自分達同志の間でも自由に口がきけなかった。変な田舎言葉を笑われそうな気がした。 女事務員が為吉にだけは親・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・というものはすべて初は「聯想」から生じた優美な感情の寓奇であって、鳩は八幡の「はた」から、鹿は春日の第一殿鹿島の神の神幸の時乗り玉いし「鹿」から、烏は熊野に八咫烏の縁で、猿は日吉山王の月行事の社猿田彦大神の「猿」の縁であるが如しと前人も説い・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・しかし、それは棺桶を聯想させた。転進という、何かころころ転げ廻るボールを聯想させるような言葉も発明された。敵わが腹中にはいる、と言ってにやりと薄気味わるく笑う将軍も出て来た。私たちなら蜂一匹だって、ふところへはいったら、七転八倒の大騒ぎを演・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・君、恥じるがいい、ただちに、かの聯想のみ思い浮べる油肥りの生活を! 眼を、むいて、よく見よ、性のつぎなる愛の一字を! 求めよ、求めよ、切に求めよ、口に叫んで、求めよ。沈黙は金という言葉あり、桃李言わざれども、の言葉もあった、けれども・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
出典:青空文庫