・・・そこで本間さんは已むを得ず、立った後の空地へ制帽を置いて、一つ前に連結してある食堂車の中へ避難した。 食堂車の中はがらんとして、客はたった一人しかいない。本間さんはそれから一番遠いテエブルへ行って、白葡萄酒を一杯云いつけた。実は酒を飲み・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・この殆んど神秘的な説明し難い感情こそ、土と人との連結でもあるのだ。 どこの村落にせよ、まだ、あまり都会的害毒に侵されざるかぎり、また、彼等が土を耕している人間であるかぎり、自然発生的に、その村に結ばれた習慣があり、掟がある。そして、他郷・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・私たちの言葉は、ちょっと聞くとすべて出鱈目の放言のように聞えるでしょうが、しさいにお調べになったら、いつでもちゃんと歯車が連結されている筈です。生活の違いかも知れません。こんな言いわけは、気障な事です。悲しくなりました。よしましょう。私が、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ このように、映画の画面の連結と連句の句間の連結とは意識の水準面の下で行なわれるときにはじめて力学的な意味をもつのである。たとえば水面に浮かんでいる睡蓮の花が一見ぱらぱらに散らばっているようでも水の底では一つの根につながっているようなも・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・星座の連結法はむしろ任意的だが顔の場合にはそれが必然的ですべての人間に共通であるとすればこれも一つの不思議な問題になる。 いろいろの「学」と名のつく学問、ことに精神的方面に関したもので、事物の真を探究するとは言うものの、よく考えてみると・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・ただ自分が何かの問題にまともにぶつかって、そのほうの必要からこれらの知識を通り抜ける時に、すべての空虚な知識が体験の糸に貫ぬかれて始めて生きて連結して来る。これと同じようなものだと思う。 農科の実科の学生が二三人乗っていた。みんな大きな・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・この中絶をなくするために二台の器械を連結してレコードの切れ目で一方から他方へ切りかえる仕掛けがわが国の学者によって発明されたそうであるが、一般の人にはこの中断がそれほど苦にならないと見えて、まだ市場にそういう器械が現われた事を聞かない。・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・その四本の足の下部を筋かいに連結する十字形のまん中がちょっとした棚のようになっている。ここが三毛の好む遊び場所の一つである。何か紙切れのようなものを下に落としておいて、入り乱れた籐のいろいろのすきまから前足を出してその紙切れを捕えようとする・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・それが遠い所にある自分という一点を通じて空間的に互いに連結されている。そうして見るとAから流れだす電流の一部は廻り廻ってBやCをも通過するかもしれない。これを推し広めて考えると、結局少なくも日本国中のおのおのの人間は全国民のおのおのと切って・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・一方では季題や去り嫌いや打ち越しなどに関する連句的制約をある程度まで導入して進行の沈滞を防ぎ楽章的な形式の斉整を保つと同時に、また映画の編集法連結法に関するいろいろの効果的様式を取り入れて一編の波瀾曲折を豊富にするという案である。 なん・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
出典:青空文庫