・・・その直前にどんなことを考えていたかと思って聊か覚束ない寝覚めの記憶を逆に追跡したが、どうもその前の連鎖が見付からない。しかし、その少し前にこの夏泊った沓掛の温泉宿の池に居る家鴨が大きな芋虫を丸呑みにしたことを想い出していた。それ以外にはどう・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・ 小泉八雲というきわめて独自な詩人と彼の愛したわが日本の国土とを結びつけた不可思議な連鎖のうちには、おそらくわれわれ日本人には容易に理解しにくいような、あるいは到底思いもつかないような、しかしこの人にとってはきわめて必然であったような特・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・例えば人間の文化の曙光時代にわれわれの祖先のまた祖先が生きて行くために必要であったある技術と因果の連鎖でこっそりつながれているのではないかという空想も起されないことはない。 もしか、そうであったと仮定すると、昔は腹を張らせるために使用さ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・第一自分自身にさえ子供の時と今との連鎖を完全に握っている人はありそうもない。こんな「証明」の必要はめったに起こらないから安心しているだけである。しかしたとえば生まれたばかりで別れて三年後に会った自分の子供を厳密な意味で確認しうる人があるだろ・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・植物図鑑などと引き合わせながら素人流に草花の世界をのぞいて見ても、形態がほとんど同じであって、しかも少しずつ違った特徴をもった植物の大家族といったようなものが数々あり、しかも一つの家族から他の家族への連鎖となり橋梁となるかと思われるようなも・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 連句は言わば潜在意識的象徴によって語られた詩の連鎖であって、ポオや仏国象徴派詩人の考えをいっそう徹底させたものとも見られないことはない。また一方では夢の世界を描いたようないわゆる絶対映画「アンダルーシアの犬」のごときものとも類似したも・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ こういうふうにいったん固定してしまうと、それが他のあらゆる文化の伝統と連鎖を成してあたかもクロモソームのように結合し、そうして代から代へと遺伝されて来たものであろう。 しかしまた遺伝のほうでいわゆる「突然変異」が行なわれるように、・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・これに反して窓のない部屋にいるときには外界と自分とのつながりはただ記憶というたよりない連鎖だけである。しかし外界は不定である。一夜寝て起きたときは、もうその室が自分を封じ込んだまま世界のいずこの果てまで行っているか、それを自分の能力で判断す・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・そしてさらにその中に踏み込んで染色体の内部に親と子の生命の連鎖をつかもうとして骨を折っている。物理学者や化学者は物質を磨り砕いて原子の内部に運転する電子の系統を探っている。そうして同一物質の原子の中にある或る「個性」の胚子を認めんとしている・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・それは単に語彙中のあるもののみならず、その文法や措辞法に、東西を結びつける連鎖のようなものを認める、と思ったからである。 最近に至って「言語」に対する自分の好奇心を急激な加速度で増長せしめるに至った経路はあるいは一部の読者に興味があるか・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
出典:青空文庫