・・・ 栗本は、進撃の命令を下した者に明かな反感を現して呶鳴った。 が、誰れも、何も云わなかった。 兵士達はロシア人をめがけて射撃した。 大隊長とその附近にいた将校達は、丘の上に立ちながら、カーキ色の軍服を着け、同じ色の軍帽を・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・戦地へいった一人の兵卒が病気のため、遼陽攻撃が始って全軍が花々しく進撃するうちに、一人だけ苦しみながら死んで行く有様を描いて、いわゆる「自然主義風」に人生の意義を語ろうとしたものである。 作品のなかに兵卒が現れだしたのは、これよりさき大・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・歩兵隊がその間を縫って進撃するのだ。血汐が流れるのだ。こう思った渠は一種の恐怖と憧憬とを覚えた。戦友は戦っている。日本帝国のために血汐を流している。 修羅の巷が想像される。炸弾の壮観も眼前に浮かぶ。けれど七、八里を隔てたこの満洲の野は、・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・しかし、彼はその悪辣さと非条理とがあからさまな質問に対して、一歩も彼のホーム・グラウンドから進撃することが出来ませんでした。すなわち、菅氏は、形而上学によって整理・構成されている自分の理性、過去の形式論理にしたがって操作される自身の理性の機・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・ナチス軍のポーランド進撃は、それから僅か十日のちのできごとであった。第二次世界大戦はこういう手順でナチスによって放火された。 その前後のことだった。わたしは、たぶん『新女苑』であったかに、一人のフランス女学生の手記がのっているのを読んだ・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・そしたら進撃の譜は吹かないで、rveil の譜を吹いた。イタリア人は生死の境に立っていても、遊びの心持がある。兎に角木村のためには何をするのも遊びである。そこで同じ遊びなら、好きな、面白い遊びの方が、詰まらない遊びより好いには違いない。しか・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫