・・・大多数の女のひとの今日の生活は逼迫の度を加えられていることは実に明らかなのですから。サラリーマンの妻としての暮しにおいても、サラリー・ウーマンとしての暮しにおいても。 女の仕事と職業とが性能の上からも一致し、正当な社会評価を求め得る気風・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・そこには頑固親父のために心ならずわかれている素一とゆり子との心持もからみあいつつすべての個人生活の懊悩も経済上の逼迫も、その組合の工場で稼ぐことで解決の方向におかれたことが物語られているのである。 薄田研二の久作は、久作という人物の切な・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・日常の経済生活の逼迫とそのような精神的よりどころなさとは、落付いて本を読む気持さえも削いで行くかに見えたのである。 ヒューマニズムの提唱が、その意識的、或は論者の社会的所属によって生じている矛盾の無意識な反映として内包していた誤れる抽象・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・当時は純文学の作家が思想的にさまざまの苦痛混乱に曝されていたばかりでなく、経済的にも益々逼迫して来る不安におかれている時代であった。純文学作品は売れないというのが一般の常識で、しかもジャーナリズムが純文学に提供する場面には制限があり、生活的・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 日本における民主主義文学運動の過程はけっして平坦でありえないし、まして、会そのものと各会員の経済事情が逼迫していて、どうしても文学運動としての密度が分散させられがちです。各人の文学上の活動が既成ジャーナリズムのうちに散発します。このさ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 息もつけない恐怖である。逼迫である。 愚痴を並べ、苦情を云っていられるうちは、貧乏の部には入らないという、そのほんとの「空虚」が来たのである。 空虚な俺等……。 蓄わえた穀物はなくなるのに、何を買う金もない。何で親子五人の・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・つきは小役人として過しており、芸術に向う心では釣月軒として自分と周囲の生活とを眺めている宗房の目に映る寛永年代の江戸は、家光の治世で、貿易のことがはじまり、大名旗本の経済は一面の逸遊の風潮とともに益々逼迫しつつあった。米価はひどい騰貴で商人・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ ところが、元帥をかこむ社会関係においてその心持は、常に十分活かし得ないで、とかく偶然化されると同時に、自身も所謂矩を越え得ず、経済機構の逼迫につれ反動的な力が増すにつれ、いつしかそのために利用される存在とならざるを得なかった。 お・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 文学青年と一括して呼ばれる若い時代の社会的・経済的支持の力は、彼等の苦しく逼迫する現実生活の必然から、従来の所謂文壇人の生活を負担しがたくなって来ている。このことは、文芸家協会の納金低下にも現れ、修飾のない実際問題として一部の作家のダ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・国内の人民生活の不如意、逼迫を解決するためにも、せまい国土をもった日本は外へひろがらなければならないと教えられた。そして小さい日本が大国と戦争して勝ち、つよくて金のある列強と対等のつき合いをし、応分の植民地分割にあずかるということに国内の現・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫