・・・けれども中には『竜王が鎮護遊ばすあの池に獺の棲もう筈もないから、それはきっと竜王が魚鱗の命を御憫みになって、御自分のいらっしゃる池の中へ御召し寄せなすったのに相違ない。』と申すものも、思いのほか多かったようでございます。「こちらは鼻蔵の・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・ と一際首を突込みながら、「花といえば、あなたおあい遊ばすのでございましょうね、お通し申しましてもいいんですね。」「串戯じゃない。何という人だというに、」「あれ、名なんぞどうでもよろしいじゃありませんか。お逢いなされば分るん・・・ 泉鏡花 「縁結び」
・・・「もうこんな気になりましては、腹の子をお守り遊ばす、観音様の腹帯を、肌につけてはいられません。解きます処、棄てます処、流す処がなかったのです。女の肌につけたものが一度は人目に触れるんですもの。抽斗にしまって封をすれば、仏様の情を仇の女の・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・華族様の御台様を世話でお暮し遊ばすという御身分で、考えてみりゃお名もまや様で、夫人というのが奥様のことだといってみれば、何のことはない、大倭文庫の、御台様さね。つまり苦労のない摩耶夫人様だから、大方洒落に、ちょいと雪山のという処をやって、御・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・「はい、沢井さんといって旦那様は台湾のお役人だそうで、始終あっちへお詰め遊ばす、お留守は奥様、お老人はございませんが、余程の御大身だと申すことで、奉公人も他に大勢、男衆も居ります。お嬢様がお一方、お米さんが附きましてはちょいちょいこの池・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・「貴方なら、貴方なら――なぜ、さすろうておいで遊ばす。」 坊主は両手で顔を圧えた。「面目ない、われら、ここに、高い貴い処に恋人がおわしてな、雲霧を隔てても、その御足許は動かれぬ。や!」 と、慌しく身を退ると、呆れ顔してハッと・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・私に一目逢おうとってその位に辛抱遊ばす、それを私の身になっちゃあ、ま、どんなだろうとお思いだ。え、後生だからさ、もう、私ゃ居ても、起っても、居られやしないよ。後生だからさ、ちょっと届けて来ておくれなね。」 伝内はただ頭を掉るのみ。「・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・私は貴方に見られますのが恥かしくッて、貴方のお座敷ばっかりは、お敷居越にも伺った事はありませんが、蔭ではお座敷においで遊ばす時の、先生のお言葉は、一つとして聞き洩らした事はないくらいでございます。奥座敷にお見えの時は、天井の上に俯向けになっ・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ こう申しちゃ押着けがましゅうございますが、貴方はお見受け申したばかりでも、そんな怪しげな事を爪先へもお取上げ遊ばすような御様子は無い、本当に頼母しくお見上げ申しますんで。 実は病人は貴方の御話を致しました処、そうでなくってさえ東京・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・こんな土を遊ばすは勿体ないせに。」「まあ、御精が出ますねえ。」そう云って、園子はそっと香水をにじませた手巾を鼻さきにあて、再び二階へ上った。きっちり障子を閉める音がした。「お前はむさんこに肥を振りかけるせに、あれは嫌うとるようじゃな・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
出典:青空文庫